カルロス・ゴーン・日産自動車社長が制裁人事に踏み切った。任期途中での異例人事が施された裏側には何があったのか。新体制の発足によって、「業績未達」と「品質問題」を解消できるのか。
「1000億円に及ぶ営業利益の下方修正を行うか否か」
10月29日、日産自動車の副社長以上の経営上層部で構成される最高意思決定機関・エグゼクティブ・コミッティ(EC)では、意見が真っ二つに割れていた。
その場で、「下方修正を決断するべきだ」と主張したとされる志賀俊之・最高執行責任者(COO、当時。11月1日に副会長へ就任)は、自身がその責めを負うことになるであろうことを察していたに違いない。
ある経営幹部によれば、その会議終了から間もなくして、カルロス・ゴーン会長兼社長兼最高経営責任者(CEO)と志賀氏が2人だけで話し合いの時間を持ったようだ。ここで、COO辞任の流れは固まった。
志賀氏がCOOとして、ゴーンCEOに仕えてから8年半。CEOを経営の師と仰ぎ、国内メディアに誤解されがちなCEO発言を補ったり、軌道修正したりすることで、CEOを陰に陽に支える“女房役”に徹してきた。
期初の4月に入って、志賀氏は「就任期間が10年に及ぶことはない。今期決算を乗り切れたならば2015年3月まで。それが難しければ1年早まるかもしれない」と、周囲に漏らしていたという。
通称“5・6・7・8作戦”。志賀氏が退任時期をにおわせるようになったのと同じころ、社内ではある作戦が進行していた。売上高営業利益率を1Q(四半期)に5%、2Qに6%、3Qに7%……と段階的にハードルを越えていけば、期初見通しの営業利益7000億円(中国合弁会社比例連結ベース)を達成できるというものだ。上半期さえ乗り切れば、11月からメキシコ工場が立ち上がるなど、下半期は設備投資の負担が軽くなることから、楽観的なシナリオを描いていたのだろう。