「ここまで来たら年末商戦を勝ち抜いて、通年でシェアトップを取りたい――」。重岡正之カシオ計算機営業本部戦略統括部QV戦略部次長の鼻息は荒い。
全国家電量販店のデータを集計するBCNランキングによれば、コンパクトデジカメの国内市場シェアは、10月末時点で1位キヤノン21.2%、2位カシオ20.1%と拮抗状態。年末商戦の行方次第では通年でのシェア逆転が現実味を帯びているのだ。
カシオは一時、国内シェアが5%に満たない時期もあった。しかし、「ユニークな商品を作る」と競合他社も認める一味違うモデルを投入してきたことが、近年のシェア躍進の理由だ。
例えば、ダイナミックフォトと呼ばれる写真に動画を合成できる機能や、1秒間で30枚の連写ができる超高速連写機能などを搭載したモデルがそうだ。そのうえ価格も「競合との比較で勝てるプライスで提供している」(重岡氏)。実際、大手家電量販店のバイヤーも「性能や機能のわりにお手ごろ価格で、数多くあるデジカメのなかでもお客様に勧めやすい」と店頭での評価は上々だ。
対するキヤノンも負けてはいない。
タッチパネルを採用し操作性向上を追及したモデルのほかに、高感度センサーや高倍率ズームを搭載した本格的なデジタル一眼レフカメラに近いモデルを投入。従来のコンパクトカメラの機能に物足りなさを感じつつも、本格的なデジタル一眼レフまでの機能は必要ないと感じていたユーザーの買い替え需要を取り込んでいる。
他にもソニーやニコン、富士フイルムなども独自の機能を持ったコンパクトデジカメを続々発売。年末商戦に向けて盛り上がりを見せている。
デジカメ市場は年間約1000万台、約2000億円で推移している成熟市場だ。ただ、ここ数年は価格の下落と、デジカメの1台目需要が一巡したことで、市場全体はゆるやかに縮小傾向だった。しかし、2009年に入って各社が熾烈なシェア争いのなかで差別化要因になるべく開発した新たな機能が追加され、市場に活気が戻り始めている。
「画素数の向上や手振れ補正機能が搭載されるような今までの“マイナーバージョンアップ”ではなく、斬新な機能を付加した商品が出てきており、市場に光が差し始めている。これから年末にかけて、コンパクトデジカメ市場に大きな変化が訪れるのではないか」(道越一郎BCNシニアアナリスト)という。
年末商戦の主役である薄型テレビやパソコンは、画期的な新機能が搭載されることが期待できず“出尽くした感”が漂うが、コンパクトデジタルカメラにおいてはそんな空気はない。各社の動向からしばらくは目が離せない。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 片田江康男)