堀江 そういう「自分で自分の尻を叩く」みたいな意識は、昔からあったんですか?

蜷川 うん、早く大人になりたかった。そして早くものをつくりたかった。

堀江 なんで?

蜷川 ひとつは、大人の人たちがいろんなクリエイティブをやってて羨ましかった。どうして私はできないんだろう、って。あとはやっぱり、小さいころから「蜷川幸雄の娘」って扱いで、「お父さん有名な人だよね」「二世でいいよね」「親の七光りだね」って言われ続けてきたので。

ずっと顔見知りだったというお二人ですが、じっくり話し合うのは今回が初めてだそうです。まったく異なる世界で生まれ育ったように見えても、実は多くの共通点があったことが分かり、会話は大いに盛り上がりました。

堀江 正直、僕もそう思ってましたからね。

蜷川 でしょ?(笑)

堀江 いま、こうやって立派に独り立ちされてるから言えますけど(笑)。

蜷川 だから、「蜷川幸雄の娘」じゃない、ひとりの「蜷川実花」として認めてもらうにはどうしたらいいか、ずっと考えてました。そのぶん、自立を意識するのも早かったんじゃないでしょうか。

堀江 そうすると、カメラを始めたのは多摩美に入ってから?

蜷川 うん。予備校時代からカメラに興味はあったんですが、写真なんか押せば写るんだからわざわざ学校で習うまでもないなって思っていまいした(笑)。でもグラフィックデザイン科に行ってもやっぱりおもしろくなくって、写真にどんどんはまり込んで、いろんなコンテストに応募して、たくさん賞をいただいて、という感じです。

堀江 すごいですね。王道というか、順風満帆じゃないですか。

蜷川 でも、蜷川って苗字だし、ご覧のとおり顔も父にそっくりなので、どこに行ってもすぐバレちゃうんですよ。ただ、一度も父の名前を借りたり、父からの紹介に頼ったりしたことはなくって。

堀江 そこのこだわりがおもしろいですよね。僕なんか他人だから「お父さんのこと最大限に利用すればいいのに」とか思っちゃうけど(笑)。でも、当事者からするとそうもいかないだろうし、やっぱり「すくすくコンプレックス」はあるんですね。

蜷川 そりゃ、ありますよ。

堀江 そういう心の中まで考えていくと、いわゆる「恵まれた環境に生まれた人」なんかいないのかもな。みんなコンプレックスを抱えてる。

蜷川 うん、そうだと思う。

堀江 ただ、僕も『ゼロ』を出す前までは「どうせ堀江は恵まれた環境で甘えて育ったんだろ」みたいに思われていたんですよ。進学校から現役で東大に入って、在学中に起業して、六本木ヒルズに住んで、みたいな。

蜷川 私もそう思ってましたよ(笑)。

堀江 でも、僕なんか完全に非モテで中二病の引きこもりですからね。

蜷川 非モテの中二病?

堀江 ぜんぜんモテなかったですから(笑)。

蜷川 あっ、それでいうと私も「かわいくないコンプレックス」は強かった。妹がすごくかわいくって。

堀江 ええーっ? でもほら、ニコ生のコメントでも「美人写真家」とかきてるじゃないですか。(注:この対談はニコニコ生放送で中継されていた)

蜷川 ほんとだー。うれしい。

堀江 ほら、「抱けるよ」とか(笑)。世間的にはそういうイメージだと思いますよ。

蜷川 あはは、ありがとう(笑)