投資家に、夏休み用の推薦図書をご紹介する。『なぜグローバリゼーションで豊かになれないのか』(北野一著、ダイヤモンド社)がおもしろい。北野氏はJPモルガン証券のストラテジストの職にあるが、筆者は、長年彼の書いた市場と経済の本を読みたいと思っていた。本書は待望の書き下ろしだ。
「グローバリゼーションで豊かになれない」筋道について、筆者は次のように理解した。
各国の生産性の進歩が互角であるとした場合、労働人口が縮小に向かう日本では潜在成長率が低く、自然な金利も資本コストも低いはずだ。しかし、資本市場がグローバル化すると、グローバル投資家は、金利にも株主資本にも世界に均一の利回りを求める。日本の金利にも株式投資の収益率にも世界水準を求めるため、慢性の金融引き締め的な効果が及ぶ。
ここで生じる疑問の一つは、各国の金利、ひいては潜在成長率の差は、為替レートで調整されるのではないかという点だ。外国の金利が4%で日本の金利が1%なら、年間約3%のペースで円高になると、内外の利回りは均等になる。株式に対するリスクプレミアムが同じなら、成長率の差は金利に吸収されるから、投資に対する期待収益率も均等化できる。ROE(自己資本利益率)も各国で異なって構わない。教科書的にも、各国が独自の金融政策を実施できるのは、為替が変動するからだ。
北野氏はもともと為替のストラテジストであった方だから、この理屈は熟知しているはずだ。だが、投資家が異なる通貨の利回りを直接比べるような意味での投資収益率の均等化を求めているのも、一方の事実だろう。政治家は通貨の違いもリスクの違いも無視して内外の年金運用の利回りを比べるし、個人投資家の多くは、名目金利が高い通貨の債券は「リスクがあるが、期待リターンは高い」と思っている。しかし、北野氏が日頃接するような外国人投資家も含めたプロの投資家までが、通貨の違いと為替レートの調整効果を無視して異なる国への投資利回りを比べているとすると、この誤解(あえて言う)はなかなか根深い。