昨年の年初から急成長してきたミニノートパソコン(PC)市場で、ソニーが満を持して投入した「切り札」が人気を博している。1月8日から店頭に先駆けて販売を開始した同社の直販サイトは、注文が殺到して1ヵ月超の入荷待ちの状態となっており、想定の倍近い数字で推移している模様だ。
ソニーがこの製品の開発に着手したのは2007年末。台湾ASUS(アスース)がミニノートPCを発売する前のことだ。目指したのは、スーツの上着の内ポケットに入る大きさと入力しやすさの両立、片手で持てる軽さ、1000ドルを切る価格である。
開発途上で、奥行きを目標よりあと2ミリ広げれば、部品も簡単に収まりコストも安く商品化することができたが、決して妥協しなかった。「2ミリ違うだけで、片手で持ったときの感触がしっくりこなかった」(赤羽良介・ソニーVAIO事業本部ノートPC事業部長)からだ。
こうして、液晶画面8インチ、重さ約600グラム、10万円弱という、ミニノートPCのトレンドとは真逆の商品が出来上がった。市場は10インチ以上、4万円台が主流となっていたが、「小さいPCを求めるニーズは間違いなくある」(赤羽事業部長)という信念を貫いた。
その甲斐あって、店頭でも入力しやすいキーボードや小型軽量を高く評価する声が多いという。「主力モデルに次ぐ柱の製品に育てたい」(赤羽事業部長)と期待は大きい。
滑り出しは順調なソニーだが、市場環境は厳しい。調査会社BCNによれば、12月の日本のノートPC市場は、販売台数は対前年比36%増となったが、金額では同1.4%減となった。景気減速とミニノートPCの低価格化で、急速に平均単価が下落しているのだ。加えてミニノートPCの販売も鈍化しており、「価格に敏感な消費者が、ソニーの10万円弱の製品を受け入れるかどうか疑問」(業界関係者)という見方もある。
ソニーは14年ぶりに1000億円前後の営業赤字に転落する見込みだが、ソニーらしさを追求したミニノートPCの成否は、同社の復活へ向けた試金石の一つとなるだろう。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 前田 剛 )