この代理店は、一応は「ベンチャー企業」と言える。2年半前に創業し、現在正社員数が6人。売上は公開していないが、業績は急上昇していることは間違いない。(②)渋谷区に事務所を構え、そのマンションの家賃は40万円近い。

 社長は40代半ばの男性。5年ほど前まで、大手広告代理店に営業マンとして15年近く勤務していた。だが、業績悪化に伴うリストラで始まった希望退職を受け入れ、退職した。そして噂では、3000万円近い退職金を基にこの会社を興した。創業した直後からコンビを組むのが、夏野である。社長とはかねてからの知り合いだという。

 社長は前職の大手広告代理店の頃から、下請けの小さな代理店に籍を置いていた夏野を、「営業マンとして使える男」として目をつけていたらしい。それだけに、クライアントの前でも「うちのエース」とか、「(社内のポジションが)ナンバー2です」と持ち上げる。

 さらには、夏野に他の社員の指導や育成を丸投げ状態にしている。(③)自らはひたすら営業にいそしむ。大手広告代理店の頃の人脈を生かし、契約を次々と獲得する。だからこそ、業績は急上昇する。

チームワーク不在で「ムリ」「ムダ」の嵐
社長とベテランの個人力でもっている会社

 しかし、社内の状況は破綻寸前である。社長と夏野のコンビで稼ぐ体制でしかなく、他の4人を含め、チームで契約を獲得する体制にはなっていない。しかも、4人は限りなく素人。それぞれが無手勝流で進めるだけに、「ムリ」「ムラ」「ムダ」、さらに「ミス」のオンパレードとなる。

 筆者が取材をすると、組織で稼ぐのではなく、それぞれの社員が独自路線で対処するスタイルは、ベンチャー企業で売上が10億円以下の会社(④)に特に目立つ。経営者や営業の責任者(部長やマネジャーなど)は、その未熟な体制を痛いほどに自覚はしている。だが、手元にある資金が少ない。ビギナーに営業を任せていたのでは、なかなか契約が取れない。経営がたちまち危うくなる。

 そこで、とりあえずはベテランである自分たちで契約を取ろうとする。ビギナーを相手に丁寧に教える時間も、心の余裕もないのだ。そのまま、経営者や営業の責任者だけで稼ぐ体制で進めると、素人のままのグループとの間に溝が生まれる。これが、ベンチャー企業で経験の浅い社員が悶える構造の1つである。