世界各国の読者を魅了するロングセラー少女漫画『ベルサイユのばら』。じつは、その誕生の裏には、知られざる編集者との攻防戦があった。一度は「売れない」と言われた企画を、単なるヒットではなく、ホームラン級の作品にしたものはいったい何だったのか?
『ベルばら』作者の池田理代子氏とボストン コンサルティング グループ、シニア・パートナー&マネージング・ディレクターの重竹尚基氏の対談後編では、前回に続きビジネスパーソンなら誰もが知りたい「ヒットを生み出すツボ」について語り合った。
(構成 曲沼美恵/写真 宇佐見利昭)
爆発的なヒットは
顧客調査からは生まれない
重竹 ところで、理代子さんが『ベルばら』を描いた時は、「読者」はどれくらい意識しましたか?
池田 意識しません。
重竹 まったく?
池田 ええ、まったく。若い時は特にそうでしたけれど、自分のためだけに、自分が描きたいものを描いていました。
重竹 それは面白いな。と言うのは、我々の世界では「爆発的なヒットはお客さんの声を聞いたら生まれない」と言われているんです。顧客というのは、今あるモノやサービスに対しての良し悪しは意見できますが、まだこの世に存在していないモノやサービスを具体的にイメージして、「これが欲しい」と言うことはできない。たとえば、昔ヒットしたソニーのウォークマン。あれは、顧客の声をヒアリングしていたら、絶対に生まれなかったはずの商品なんです。
池田 それは実感としてすごくよく分かります。最近ね、『ベルばら』を連載していた『マーガレット』で、連載開始40周年を記念してエピソードを描いているんです。新しく付いてくれた担当者が読者の感想をいろいろと教えてくれるんですが、私は「教えないでくれ」って言ったのね。「こういう展開が読みたい」という読者の声を耳に入れないでほしい、ってお願いしたんです。だって、それに合わせて描いていたら、つまらないものになっちゃうでしょう?