前回から引き続き、自らの愛され方を会社に提案し、結果として会社を変えるムーブメントを引き起こしたミドルの事例を紹介する。
今回紹介するのは、宇都宮毅(たけし)氏。現在の肩書きは、博報堂クール・ジャパン推進室ビジネスディベロップメントディレクター。主人公をクリケットのスター選手に変えた、インド版「巨人の星」を仕掛け、それをきっかけに日本のDNAを海外に発信することで、ニッポンの活力を取り戻す。そんな「ニッポン力研究所」構想を推進する。
昭和のスポ根アニメをリメイク
インドに輸出した東京五輪世代
1960年代末から1970年代にかけてテレビ放映され、絶大な人気を博したアニメ、「巨人の星」(原作:梶原一騎、作画:川崎のぼる)をご存じの方は多いだろう。
この人気アニメをインド版にリメイク、野球をインドで盛んなクリケットに置き換えて、「スーラジ ザ・ライジングスター」として2012年~13年にかけて放映。人気を博した。
このリメイクを仕掛けたのは、奇しくも同じ時期に、同じアイデアを膨らませた同い年の2人の人物、博報堂の宇都宮毅氏と講談社国際事業局担当部長の古賀義章氏であった。2人が着想を得てから1年、まだ夢は夢のままだったが、事態が大きく動き始めた。
この構想の噂を聞きつけた、全日本空輸のインド代表、杉野健治氏がスポンサーとして名乗りを上げた。
それだけではない。当時、民主党政権下でクール・ジャパン戦略を推進していた経済産業省も、支援の名乗りを上げたのだ。
2011年3月にムンバイで日印の企業交流会が開催され、12年4月には当時の枝野幸男経産相がインドを訪問、日印クリエイティブ産業協力について合意した。その際、この「スーラジ ザ・ライジングスター」をモデル事業に位置付けたのだった。
宇都宮氏、古賀氏、枝野氏、さらに、クール・ジャパン戦略の舵取り役であった、当時のクリエイティブ産業課長、渡辺哲也氏も皆、1964年生まれだった。言ってみれば東京五輪世代。誰もが「巨人の星」の象徴する昭和の日本に懐かしさを感じる世代だ。実は、今のインドには、それと同じ懐かしさが漂っているのだという。