移動手段がジープからラクダへ進化!?
イノベーションは現場からしか生まれない
今、改めてイノベーションの起こし方に注目が集まっている。2月に紹介した2人(第8回、第9回)のミドル男性が行ったことも、まさにイノベーションであった。イノベーションこそが、会社も、またそれ以上に自分の今という状況をも全く変えてしまうことができる手段だ。そうしたイノベーションは何も、新技術を使った先進の事例を言うのではない。
アフリカの、ラクダ冷蔵庫をご存じだろうか。
こういうと、あなたはどんなものを想像するだろうか。
これは、ユニセフが開発したイノベーションだ。目にすると実に不思議なもので、ラクダが冷蔵庫を背負っている。そして、その冷蔵庫にはソーラーパネルがついている。
冷たい飲み物を運んでいるわけではない。アフリカの村から村へと、伝染病を予防するためのワクチンを運んでいる。かつてはジープに冷蔵庫を積んで、運んでいた。ジープからラクダへと言うと、時代を逆行しているように思うかもしれないが、これは進化なのだ。
ジープは、一応、悪路にも強いが、それでもアフリカの大地は過酷だ。砂漠も広がる。すぐに故障するし、ガソリン代も高額に上る。そこでユニセフは、何とか安価に、そして確実に、この仕事をこなせないかと考え、誰かがラクダを思いつく。
しかし、ラクダにはバッテリーがないので、ソーラーパネルを装備することにした。エコであるし、安価で確実な輸送手段となった。
さらに面白いのが、このラクダを引いている人だ。彼は医師でも看護師でもないが、注射の打ち方だけを教わっている。だから、村に医師がいなくても自分でラクダを引いていき、自分で注射をして次の村へと移動する。移動クリニックのようなものだ。ラクダと冷蔵庫とソーラーパネルと注射の打てるラクダ引き。この一見何の関係もないものが組み合わさったことで、今までにない価値が生まれた。
私の言うイノベーションとはまさにこれを指す。シュンペーターが定義した“新結合”こそがイノベーションなのだ。古いもの同士でもいい。あるいは古いものと新しいもの、もちろん新しいもの同士でもいいのだが、うまく組み合わせることで、新たな価値を生む。これがイノベーションである。
逆に言えば、新たな社会的な価値を生まない組み合わせはイノベーションではない。価値のあるイノベーションを生むためには、一にも二にも現場感覚が重要だ。「事件は現場で起こっている」とい有名なセリフがあったが、「イノベーションも現場から生まれる」ものなのだ。決して研究所からではない。科学技術者しか生めないものでもない。