

「フロムを買いたい」――昔からこの言葉は業界での挨拶代わりだった。日本でもインディペンデント系スタジオは他にもあったが次々に吸収合併され、フロムは“最後の独身貴族”的扱いを受けていた。買収話に関わった複数の関係者の話を総合すると、近年はその話もかなり真剣なやりとりに変わっており、求婚者が多数フロムに押しかけていたという。
求婚者側(買収元)がフロムを求める理由は、先述したとおりフロムが持つずば抜けた国際競争力を手に入れたいためだ。業界ではフロムのようなゲームで海外市場を制したい企業も少なくなく、かつては自社開発および販売を目指して100億を超える巨額の投資をして失敗したケースもある。そんな他社の失敗を他山の石として、「同じ投資をするのなら、フロムを買収すればよい」という話になるのは当然だろう。
フロムに話を持ちかけた角川とは別の買収関係者によると、「確かに、求婚者はフロムにたくさん押しかけていたようだ。家庭用系、ソーシャルゲーム系などいろいろいて、しかもかなりな巨額のオファーもあったらしい」という。
では、なぜ角川に決まったのか。
「やはり、『会社と社員の成長こそが仕事の本質』という神社長の人生哲学が決め手になったのではないか。これは憶測でしかないが、神社長は買収によって巨額の創業者利益を得ることよりも、どうも会社と社員が末永く幸せである方向性をさぐっていたフシがある。つまり、神社長は会社を公器として考えておられたのだろう。
ゲーム業界ではさまざまな企業買収が行われているが、買収された側はブランドだけ残して、最悪、買収された側の社員が解雇されるようなケースも珍しくない。もっとも、買収した側はお金を払っているわけだから、買われた方は文句を言えないわけだが、そこを神社長はなんとかしたかったのではないか」
つまり、神社長は「角川なら安心してフロムを渡せる」と判断したといえそうだが、なぜ角川がそう判断されたのか。その理由は角川ゲームスの状況にありそうだ。