「VAIO、投資ファンドに売却だってよ。うちの事業部でなくてよかったな」

 ソニーのVAIO事業が日本産業パートナーズの投資ファンドに売却されることが発表された運命の5月28日、こんな会話がソニー社内で多くやり取りされたのではないか。

 かたやソニー、かたやファンド。ある日を境にして、VAIOに携わる社員の保険証から慣れ親しんだ「ソニー」という呼称が消える。まさに、天国と地獄といったところか。

 しかし、本当にそうだろうか? 筆者は、逆の意見を持っている。

 数年後には「VAIO株式会社」こそが、井深大さんや盛田昭夫さんの志を受け継いだソニーらしい企業になっているのではないかと感じる。「VAIO株式会社」は、この7月からわずか200名程度の小集団でスタートする。自ら残りたいとハラをくくった、熱き想いを持った人たちの集団だ。

 小規模なので、ムダに規模を追い求める必要がない。本来のソニーらしい、「自分たちがつくりたいモノをつくる」ことができる。数年後には、ユニークで尖った商品を発表し、市場で独特の存在感を発揮しているだろう。ひょっとして、「和製アップル」と呼ばれているかもしれない。

 一方、5月28日の報道で「ほっと」胸をなで下ろしたソニーの残留社員は、その後も大きな変化を感じられず、ムダに時間ばかりを費やし、気が付けば「VAIO株式会社と、どちらがソニーかわからない」と揶揄されているかもしれない。

日本のモノづくりの強さはメカ的技術
徹底した「すり合わせ」が価値を生む

「ダメか……」

「いえ、ポイントは記憶装置です。『VAIO』は部品を高密度に重ねることで小型化と水没対策をしているので、途中で紅茶が止まっている可能性があります」

 プロは諦めていない。

 フラットケーブルのコネクターを横にずらし、マイクロスコープで基板の裏に隠れている記憶装置を確認する。

「大丈夫ですよ。たぶん。紅茶はここまでは来ていません」

 一旦、PC内部の水分を全て飛ばし、数時間暖房器具の前で乾燥させた後に、電源を入れた。PCが起動した。一部、キーボードが死んでいたが、データに損害はなく、大事には至らなかった。