「じつは私、後片付けが大嫌いなんです」。それも「ちょっと苦手というよりはだいぶ苦手」。なのに、「接客業は好き」というねじれっぷり。

「学生時代、パン屋でアルバイトをしていたことがあるんです」

 パンを包む作業やレジでお客さんと接するのは得意だったが、スタッフにはよく、こう言われたそうだ。

「『なんか、のんびりしてるよね?』って。これって、あんまり褒め言葉じゃないなっていう気がしませんか?」

「うーん、職場ではそうかも……」

「しゃべるのがゆっくりだからかなと思ったんですけど、やはり、パン屋さんみたいな仕事だと自分はどうしてものんびり見られがちなんだなと思って、だったら、椅子に座ってできる仕事の方がいいだろうと思い、事務職を選んだんです」

 狙い通り、営業事務は難なくこなし、初めての経理もすぐに慣れた。

「それで、時間的にも経済的にも余裕ができたから、今度はパン教室に通い始めたんですね」

「なるほど……」

 クロワッサンの層がうまくできないと、自分の作ったパンを持参して質問に行くくらい、熱心な生徒だったという。「そんなにパンが好きならば、パン教室の先生になれば?」と薦められたが、先生になりたいとは思わなかった。

「私はやはり先生じゃなくて、パン屋さんになりたかったんですよ」

 諦めきれず、一度はパン屋さんに就職もしたそうだ。

「それが転機と言えば転機でしたねえ……」

 なんと、勤めて1ヵ月で小麦粉アレルギーになってしまった。この一件以来、「自分はつくづくパン屋さんには向いていない」と思ったそうだ。

 よくよく観察してみれば、スタッフはみな器用に生地をこねて丸め、量りにかけたと思ったら針が動いている間に素早く次の生地を切っている。どう考えても、そのスピードにはついて行けそうになかった。

「それで完全にふっきれました。自分にはパン屋は無理だ、と」

中華鍋からベランダ、そして平日のキャンプ場へ
規模が大きくなる燻製の実験場所

 考えてみたら、佐藤さんは昔から実験が好きだった。赤ジソをもんで水につけると、パーッと色が変わる。紅芯大根を薄くスライスして酢に漬けると紫色だった表面が真っ赤になる。梅干しを漬けるのも好きだった。