機動戦と消耗戦を止揚せよ

 兵站の確保と初動のインパクトが作戦の実行の際に最も重要なのだと述べたが、これは言い換えれば、機動戦と消耗戦をいかに使い分け、止揚していくか、という問題だ。機動戦は特に初動のインパクトに顕著に表れるし、消耗戦を戦い抜くには兵站の確保が欠かせない。

 詳しくは『史上最大の決断』をご覧いただきたいが、ここで消耗戦と機動戦について、簡単に説明しておきたい。

 機動戦(Maneuver Warfare)とは、「意思決定と兵力の移動、そして兵力の集中というプロセスを迅速に行うことで、敵よりも物理的、心理的な優位に立ち、戦闘の主導権を握る戦法」である。敵が予測しないような行動を素早く取り、敵の混乱に乗じて、敵のもっとも脆弱な点を突く戦術だ。この戦術を成功させるためには、敵を上回る戦況観察や情勢判断、意思決定と素早い行動が必要となる。

 効果的に機動戦を遂行するためには、分散的で協同的なネットワーク型組織が必要となる。つまり、指揮統制は現場の適応性や独自性を尊重するものでなければならない。

 一方、消耗戦(Attrition Warfare)とは、「兵器の力を最大限に生かし、敵を物理的な壊滅状態に追い込もうとする戦法」である。このために必要となるのが圧倒的な軍事力であり、兵站力である。この戦法には、戦線の膠着に伴う戦いの長期化がつきまとう。第1次世界大戦の独仏による塹壕戦などはその典型例である。

 対極的な概念である機動戦と消耗戦だが、図が示すように、現実の戦争において両者は連続して起きる。戦闘においても、局面に応じて入れ替わる。むしろ、この2つの戦法を時と場合によって使い分け、戦略的に総合することができれば、もっとも効果的に、しかも短期間で勝利することができるのである。

 ノルマンディー上陸作戦も、機動戦と消耗戦という両方の性格を持っていた。勝利した連合軍は、ドイツ軍と比べると圧倒的にフラクタル性が強く、特にアメリカ軍の司令官たちは、現場の状況に応じて主体的に、すばやく判断し行動することができた。ここでの最大の立役者はパットンである。こうした衆知を活用するマネジメントが、連合軍の勝利をもたらした点を見逃すことはできない。