イラク情勢が急転直下、緊迫し始めた。首都バグダッド北部の複数の主要都市が、信じられないスピードでアルカイダ系テロ組織「イラク・レバントのイスラム国(ISIL)」の手に落ちているのだ。彼らの目的は、レバント(シリア、ヨルダン、レバノン、イスラエル等の地域を指す)のどこかに純粋なイスラム国を創ることにある。
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背景には、2011年12月の米軍のイラク撤退以降、イラク政府の治安維持隊の実力が低下していることがある。米軍撤退はシェール革命による中東原油への依存低下、東アジアで挑発行為を繰り返す中国への対抗、財政状況の悪化など、さまざまな要因が重なり、オバマ政権が決定したものだ。
また、シーア派を重用するマリキ政権に対する、スンニ派住民の反発も大きい。マリキ政権は米軍撤退以降、政府の要職をシーア派で固め始めた。それ故、政府が今回ISILへの徹底抗戦を訴えても、これに呼応する動きは少なくともスンニ派が多数居住する地区では活発になっていない。
中東戦争勃発リスク
今後のイラク情勢が世界経済に与える影響としては、原油供給が途絶して価格が高騰するリスクが考えられる。
具体的には次の三つのシナリオだ。(1)ISILがイラクの主要な原油生産地区である南部の石油施設を破壊する、(2)ISILが政権転覆を成し遂げ、国際社会がイラクに対する制裁措置を発動し、原油供給量が減少する、(3)イラク国内の治安悪化に伴い、外国人油田労働者が退避し生産ができなくなる、である。