経営 × オフィス

弱者へのストレスのつけ回しがブラック化の真因?
うつ社員が溢れる「忍耐消滅職場」はあなたがつくる

渡部 幹 [モナッシュ大学マレーシア校 スクールオブビジネス ニューロビジネス分野 准教授]
【第4回】 2014年7月9日
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 派遣職員のAさんは、官庁から来るお偉いさんとのビジネスの窓口となっていた。よくあることだが取引先の要求は厳しく、とても受けることのできない規約違反レベルの要求を平気でしてくる。当然、いくつかのものは断らなくてはならない。ところが断ると、「何でだ! これくらいのこともできないのか!」と逆ギレされることもしばしばだ。

 当然のことながら、要望に応えられないのはAさんのせいではない。政府自身が規約をつくっているのだから、それに従っているまでだ。だが現場の人々は、規約のことなどお構いなしに無謀な要求をしてくる。

 本来、そういった無謀な要求には、責任ある立場の者が直接相手と対峙し、交渉をするべきである。Aさんの職場ならば、Aさんの上司に当たる正社員がその役目だ。

 Aさんは粘り強く取引先を説得し、無茶な要求には応えられない旨を丁寧に説明した。いったんは納得した取引先は、その場では引き下がったが、後日彼女の頭越しに、彼女の上司である正社員の男性に直接交渉に行ったという。

取引先の恫喝に冷静に対処した派遣社員、
平身低頭でたやすく軍門に降る正社員上司

 例によって、恫喝に近い形で、その取引先は正社員に要求を突き付けてきた。それにひるまず、冷静に丁寧に対処したAさんとは対照的に、上司である正社員の男性は平身低頭で、「ウチの派遣が至らなくてすみません」と繰り返し、「要求には100%応える」という返答をした。

 取引先はその足で、Aさんのオフィスに立ち寄り、「いやあ、Aさんは頭が固いんだよ。上司の○○さんに話したら、簡単に話は通ったよ。彼は話がわかるね。あとはよろしくね」と得意顔でAさんに語った。

 Aさんが唖然としていると、すぐに上司の正社員から電話がかかってきた。Aさんが出るなり、彼はこう言い放ったという。

 「なんで、直接相手をこちらに寄越すんですか! いいですか! あんな要求、聞けるわけないんだから、Aさんから断ってください!」

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渡部 幹(わたべ・もとき)
[モナッシュ大学マレーシア校 スクールオブビジネス ニューロビジネス分野 准教授]

UCLA社会学研究科Ph.Dコース修了。北海道大学助手、京都大学助教、早稲田大学准教授を経て、現職。実験ゲームや進化シミュレーションを用いて制度・文化の生成と変容を社会心理学・大脳生理学分野の視点から研究しており、それらの研究を活かして企業組織にも様々な問題提起を行なう。現在はニューロビジネスという大脳生理学と経営学の融合プロジェクトのディレクターを務めている。代表的な著書に『不機嫌な職場 なぜ社員同士で協力できないのか』(共著、講談社刊)。その他『ソフトローの基礎理論』(有斐閣刊)、『入門・政経経済学方法論』、『フリーライダー あなたの隣のただのり社員』 (共著、講談社)など多数。


ニューロビジネス思考で炙り出せ!勝てない組織に根付く「黒い心理学」 渡部幹

この連載の趣旨は、ビジネスマンのあなたが陥っている「ブラック」な状況から抜け出すための「心」を獲得するために、必要な知識と考え方を紹介することにある。社員を疲弊させる企業が台頭する日本社会では、「勝てない組織」が増えていく。実はその背景には、マクロ面から見た場合の制度的な理由がある一方、日本人の持つ国民性や心理もまた、重要な要因として存在する。そうした深いリサーチが、これまで企業社会の中でなされてきただろうか。本連載では、毎回世間で流行っているモノ、コト、現象、ニュースなどを題材として取り上げ、筆者が研究する「ニューロビジネス」的な思考をベースに、主に心理学や脳科学の視点から、その課題を論じていく。あなたは組織の「黒い心理学」を、解き明かすことができるか。

「ニューロビジネス思考で炙り出せ!勝てない組織に根付く「黒い心理学」 渡部幹」

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