何のために働くのか、毎日、実感できる

 その時から5年弱。今も一緒に走り続ける最大の理由を、園田はシンプルな言葉で表現する。「自分たちの仕事の意義を、毎日のように感じられるからかもしれません」。例えば祐ホームクリニックは、在宅で看取りまで支援する。住み慣れた家で愛する家族に囲まれ、患者が天寿を全うすると「そのお部屋はとても満ち足りた空気で満たされます」。それは現場にいる医師・看護師・介護関係者はもちろん、クリニックでオペレーションを担当する事務スタッフにも伝わってくる。関係者全員が、自分たちが何のために努力しているのか、毎日のように感じることができる。

 患者と家族に対する提供価値を最優先すると、組織のありようも既存の医療機関とは変わってくる。例えば緊急時。患者の家族から電話を受けた事務スタッフは医師に素早く指示を出す。「先生、○○さんのところへ行ってください」。ピラミッド型の病院組織において、普通なら事務スタッフは医師に「お伺いを立てる」。でも、武藤は言う。「最前線の情報を持っている人が指示を出してくれないと、医師は動けない。遠慮なく指示してください」。

 患者第一を実践するための権限委譲は細部に渡っている。例えばクリニックのウェブサイトには「在宅医療にかかる費用」について分かりやすい説明がある。そこには例として「月2回訪問した場合」の自己負担額合計を6840円と記してある。また、「一ヶ月あたりの医療費負担は概ね12,000円程度(+介護保険分580円程度)です。 これ以上かかった場合には手続きにより返還してもらうことができます」という記載もある。在宅医療はまだ、新しい形態ゆえ、全てが保険外診療で非常に高くつくのではないか、と不安を持つ人が多いことに充分配慮した分かりやすく親切な記載だ。このように利用者の立場を考慮した文面を考えているのも、クリニックのスタッフだ。

すごいのは
「経歴がピカピカだから」ではない

「経歴がピカピカだから『武藤さんってすごいね』という方もいますが、今の武藤さんのすごさは、そこから来ているのではないのではないかと思います」と園田は言う。「仕事の一番大変な部分を厭わずに引き受けながら、自分の力を過信せず、うまく人の力を借りられることが、武藤さんのすごいところ」。クリニックを立ち上げた当初、武藤は自ら24時間365日働いて、何でも自分でやった。だから今も、やろうと思えば大抵のことはできる。今はそんな武藤を見て「私がやります」というスタッフに恵まれている。クリニックは外科、癌の専門医、精神科医、麻酔専門医など、武藤の専門である循環器内科以外の専門を持つ医師の協力で成り立っている。うまくいく理由について「(人の力を借りられるのは)根底に、他人への信頼や尊重があるから」と園田はみる。