高齢化が進む中、病院や介護施設ではなく「自宅で最期を迎えたい」と考える人が増えている。そのために不可欠なのが、在宅医療。往診してくれる医師や看護師、ケアマネジャーが連携し、24時間365日、相談できる体制をつくること。これを実現するため、東京と宮城県・石巻で在宅医療を手がける医師の物語。一見、相矛盾する要素を兼ね備え、圧倒的な価値を生み出す“バリュークリエイター”の実像と戦略思考に迫る連載第4回(前編)。

※この記事は、GLOBIS.JP掲載「大学病院、戦略コンサルタントを経て、高齢者の笑顔を選んだ医師 前編―武藤真祐氏(バリュークリエイターたちの戦略論)」の転載です。

 大通りを入って5分ほど歩くと、大きな公園に出る。ここでは毎朝、ラジオ体操が行われている。最寄りのJR山手線巣鴨駅近くには、いわゆる「おばあちゃんの原宿」、地蔵通り商店街があり、買い物や談笑を楽しむ高齢者で賑わっている。

 こうした場所に出かけてくるのは元気な高齢者だ。一方で、武藤真祐(むとう・しんすけ)が日々、接しているのは外出に困難を感じる高齢者たち。年を取るにつれ、誰でも感じる体の不調や手術などで退院した後の不安を抱えつつ、できればずっと、自宅で家族と一緒に暮らしたいと願う人は少なくない。もしも信頼できる医師や看護師が往診してくれさえしたら。

 そうした願いをかなえるために、武藤が巣鴨駅徒歩圏に「祐ホームクリニック」を開設し、東京で在宅医療を始めたのは今から4年前の2010年。現在、文京区、北区、荒川区、豊島区の全域と台東区、板橋区、新宿区、千代田区の一部地域で訪問診療を行っている。2011年に大震災が起きた半年後には、宮城県石巻市に在宅医療の拠点を作り、同市内で訪問診療を行っている。

 祐ホームクリニックの約束(YOU CREDO)には「患者さん・ご家族との約束」として「わたしたちは、患者さんが安心してその人らしい人生を送ることが できるよう、患者さんとご家族の言葉に真摯に耳を傾け、適切な支援を行います。」と記されている。