ゼロから起業し、エスグラントは上場を果たしものの、リーマンショックにより全財産を失い破綻、その後再びゼロから起業、成功させた若き経営者が心に刻んだ教訓を綴った『30歳で400億円の負債を抱えた僕が、もう一度、起業を決意した理由』の出版を記念して、第2章を順次公開。上場を果たしてまさに人生の絶頂にあった著者の視界に暗雲が漂い始めます。第1回は6億円詐欺事件の顛末。

6億円詐欺事件が
示していた警告

 サブプライム住宅ローン危機前夜、2007年6月の決算直前のことである。
「社長、世田谷区池尻で割安の土地が売りに出ています」
 ある朝、建築担当の部長から報告を受けた。金額は6億円。たしかに、広さと立地を考えると、買って絶対に損はない物件だ。

「なるほど。相続案件の事情はわかるが、それにしても安すぎるのが気になる。さらに詳しく内情を調べる必要があるな」
 格安の不動産には、それなりの事情があるものだ。土壌汚染、境界不確定、建物なら違法建築や既存不適格、耐震強度偽装の姉歯事件のようなこともある。

 いずれにしても、東証上場に向けて少しでも実績を上げたい局面である。少々のリスクであれば飲み込んで、勝負に出る腹づもりではあった。数日後、調査を指示した部長から報告があった。
「どうやら、相続で親族がもめているようです」

 ある親族が、土地を分割して相続することになったのだが、売りに出ている側の土地を相続するほうに経済的事情があって、できるだけ早急にキャッシュが欲しい。だから、早めに決めてくれるなら格安で譲り渡すという。すなわち「相続税が払えないから、早く売りたい」ということだった。

 仲介に立っているのは、「ゴールドマン・トレジャー」という会社だった。今までに取引実績がない業者だったこともあり、その会社の反社会勢力チェックと、取引先のヒアリングなど、慎重に進めるように指示をした。