中小零細企業が、今、まさに崖っ縁まで追い込まれている。急速な円高に加え、中小企業を優遇する法律の期限切れが迫るなど、取り巻く環境が悪化しているためだ。金融機関も準備を進めており、まさに“倒産ラッシュ”前夜の様相を呈している。

 ひとたび倒産すれば、凄絶な地獄が待っている。取引先や債権者に多大な迷惑をかけるばかりか、一家離散など不自由な生活を強いられてしまう。

 だが、そうした事態を回避する方法がある。「廃業」だ。上手に廃業すれば、普通の生活を送れるのはもちろん、再び事業を興すことも決して夢ではないのだ。

多額の費用負担発生で
廃業を決意した老舗旅館

 栃木県内で100年以上も続いてきた老舗旅館の3代目社長、高杉慎一郎さん(仮名・76歳)がビジネスホテル業に舵を切ったのは、1960年代末のことだった。

 きっかけは大企業の進出だ。松下電器産業(現パナソニック)やホンダといった優良企業が県内に続々と進出し、工場を建設していったのである。

 当時はまだこうした宿泊施設は珍しく、いわば“走り”。これら大企業との商談に訪れる取引先や本社からの出張ニーズなどを見事にとらえ、客数はみるみる伸びていく。

 しかし、それから40年あまり。時代は大きく変わってしまった。年商はピーク時の4000万~5000万円から、直近では約1200万円と4分の1にまで落ち込んでいたというから厳しい。

 無理もない。2008年のリーマンショック以降、これら大企業が軒並み事業再編の一環として、次々と工場を閉鎖、撤退してしまったからだ。