カリスマ性のある創業経営者に対しては、なかなか物申すことができないもの。その経営者が「会社を辞めろ」と言ってきたら、あなたはどうするか。簡単に辞表を書く人がいる一方で、抵抗する人も現れるだろう。しかし、その抵抗は想像以上に苦しい。
今回は、カリスマ経営者のあくどいリストラに抗った挙げ句に、孤立していく男性管理職を紹介する。
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■今回の主人公
相良俊彦 仮名(46歳 男性)
勤務先: 中堅教材販売会社。従業員数230人。カリスマ経営者のもと、30年以上にわたり躍進を続けた。だが、2年前から売上が伸び悩む。昨年秋の金融危機以降、売上は一段と鈍化し、ついに人員削減に踏み切った。
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(※この記事は、取材した情報をプライバシー保護の観点から、一部デフォルメしています)
騙された管理職たち
「貴殿から受理した“進退伺い”を慎重に検討した結果、ライブ社をお辞めいただくことになりました」
こう書かれた書類を受け取った副部長の相良は、10メートルほど離れたところに座っている人事部長をにらみつけて、声を出した。
「俺たちをだましたな!」
人事部長は、こちらを見向きもしない。会議室に呼ばれた管理職28人がこの書類を受け取ったことを確認すると、淡々と説明を始めた。
「皆さんには、通常の2倍以上の退職金を支払うこと、そして会社として再就職支援をさせていただくことを約束します。長い間、ご苦労様でした」
「ご苦労様?」
「どういうこと?」
人事部長と人事部員3人は、管理職らの質問に答えることなく、会議室を出て行く。周囲がざわめく。相良は、もう一度書類に目を通した。
「貴殿から受理した“進退伺い”を慎重に検討した結果……」
その文言をじっと見つめながら、思い起こした。あのとき、自分の意思で“進退伺い”を書いたのではない。あいつに騙されて書いたのだ。そう思うと、怒りから手が震えてきた。周りに座る管理職たちの中から、小さな声が聞こえてくる。
「“貴殿から受理”と書かれてあるけど、社長が書くように仕向けたんだろう?」
「これじゃあ、だまし討ちだろう。法的に問題じゃないのか?」
「こんなリストラって、これまでに聞いたことがない。明らかに不当だ!」
そうした声を聞くと、相良は多少落ち着いてきた。そして、1週間ほど前の出来事を思い起こした。
「任意」という名の「強制」
その日の夕方、事業推進部と販売部門の管理職ら計28人が会議室に呼ばれた。まず、社長の寺本(62歳)が会社の現状を説明し始めた。経営状態の危機を延々と説明していく。
「会社は創業始まって以来の危機でして、人件費総額の15%カットと役員報酬の30%カットを先日の株主総会で……」
相良は、真剣に聞かなかった。その話は、管理職会議ですでに聞かされたものだったからだ。
約1時間後、寺本はこう締め括った。