しかし、である。教科書に書いてあることが理解できることと、ビジネスで才能を発揮できることとは、まったく別物だ。官兵衛さんはそのよくない典型だったようで、ビジネスセンスはまったくと言ってよいほどなかった。予算計画策定など数字を“ちゃんとする”ことは得意でも、商品企画や宣伝、営業戦略、社員のモチベーションを上げていくような“ウケる”ことに関しては、まったく向いていなかったのだ。そのため、彼が主導して企画するプロジェクトはことごとく当たらない。

 あるときなど、市場のポジショニング図に空白を見つけて、「この商品は必ず当たる!」「元競合企業のマーケ担当取締役OBに話したら、スゴイと褒められた」と喜んでいたのだが、結果は大失敗。その空白部分というのは、過去に数多の同業他社が挑んでは失敗していった、同業者なら知らない者はいない不毛地帯だったのである。官兵衛さんを褒めたOBも、そのことを知らないはずはない。教科書的な知識だけを武器に「これだ!」と息巻く姿を見て、きっとそのOBも陰では笑っていたのだろう。

諸悪の根源は経営者の「サボり心」
右腕も“自分の限界”を知るべし

 残念だったのは、官兵衛さんが「いい人だった」ということである。私利私欲のために自分の立場を利用しているだけなら、早々に化けの皮がはがれていただろう。しかし、本当に会社のため、経営者のためを思い、心の底から「当たる!」と信じて熱く語るものだから、言葉に力があって周りもあえて反論することをやめてしまう。

 また、いくら現場では通用しない理論でも、教科書的な知識があれば「理論的には」綺麗な企画に見える。さらに、経営者に気に入られている人だと知っていれば、周囲の人間は官兵衛さんのアイデアに「No」と言うことができない。(官兵衛さん自身はそんなことはしない人物だったが)懐刀の機嫌を損ねれば、多くの場合、経営者に悪評が吹きこまれ、自分の立場が危うくなるからだ。

 その昔、豊臣秀吉から褒美をもらう事になった曽呂利新左衛門はお金の代わりに、一日に一度、秀吉の耳を嗅ぐ機会をもらう、という変わったご褒美をもらうことにした。居並ぶ大名からは、この仕草は曽呂利がいろんなことを秀吉に告げ口しているように見えたのである。その結果、大名たちは曽呂利の機嫌を損ねぬようにと、どんどん金銀を送ってきてその総額は大変なものになったそうだ。