「自動車電話」から「自動車」を取りのぞいたら?
当時は、ポータブル通信機器の開発における数年来の経験と実績が評価され、次世代自動車電話の開発を任された。家や会社だけでなく、自動車に電話を取り付ければ、連絡が取りやすくなると考えられている時代だった。そう、彼に与えられた課題は「自動車電話をつくること」だったのだ。
しかし、マーティーは与えられた任務にすぐ取りかかるのではなく、一呼吸おいた。そして、突拍子もない直感に耳を傾けた。
「人が電話をかけたいと思うのは相手の人間であって、家や会社や車ではないはずだ」
マーティーと彼のチームはさっそく、世界初の携帯電話の開発に着手した。
それから数年後の1973年4月3日、第1号機を手にしたマーティーはマンハッタンの街角に立っていた。通行人が見守るなか、携帯電話第1号による通話が実現する。重さは1キロ以上もあり、チームでは「レンガ」の愛称で呼ばれていた。電池の寿命は20分。
「でも、寿命の短さは問題になりませんでした。なにしろ重くて、20分持っているのがやっとでしたからね」