テニスファンのために作る
ドキュメンタリーの意義

 先ほど私は、地上波とWOWOWをあえて“同業のテレビ局同士”と書きました。たしかに、“テレビ局同士”ではありますが、業態はもちろん、番組編成の考え方にも大きな違いがあることをここで確認しておきたいと思います。

 WOWOWは、錦織選手の活躍で加入者が増える、つまり、民放地上波でいう「視聴率が取れるから」どこも放送しない全米オープンを放送したのでしょうか。

 鈴木氏の次の言葉が印象に残りました。

「もちろん選手の活躍はコントロールできないので、自分たちで仕掛けていたわけではありません。しかし、テニスというものを日本の中で根付かせていくため、日本人の花形選手がいないような苦しい時代も含めて、地道に20年近く日本のファンのためにテニスを放送してきたことが、この機会につながったと思います」

 これは、WOWOWが加入した人だけが見られる、エクスクルーシブなメディアであるがゆえにできることではないでしょうか。

 実はWOWOWは、錦織選手と2009年からイメージキャラクター契約を結んでいます。ゆえに、これまでの軌跡を記録した密着映像をたくさん保有しています。

「ベスト4進出を決めた際、これまで保有していた映像を編集し、ドキュメンタリーを放送することを決定しました。全米オープンがあって、直後にドキュメンタリーがあって、楽天ジャパンオープンがある。いかに視聴継続をしていただくか、ということを考えています」と、豊島氏は同社のマーケティング戦略を語ってくれました。

 同社は、今までの「大山を作って終わり」という発想をやめ、「つないで行く」という意識での番組編成、制作、営業施策にシフトしているといいます。

 加入者の継続のポイントは、顧客属性を把握し、属性に応じた編成を提供して行けるかが大きな要因です。鈴木氏によれば、同社の和崎信哉社長から、「今までは、テレビ局という意識のほうが強かったのでプロダクトアウト型に寄っていたが、顧客ニーズを知って、そこにコンテンツを提供していこう」という方針表明があったそうです。

 エクスクルーシブなコンテンツは、オリジナリティの高い価値を有するがゆえにリーチを拡大しにくいものですが、既存加入者の継続に加え、新規の加入者を獲得するには、今回の「錦織選手」の例のように、あるきっかけで一気に突き抜けるポテンシャルを持ったコンテンツを育て、リーチの広い地上波放送などと組むことで関心を持つ層の裾野を広げることが有効だということが、鈴木・豊島両氏との対話から実感できました。

 WOWOWの番組作りのこれからに、注目していきたいと思います。