プロダクト・アウト指向と
マーケティングは対立しない

マーケットから発想したのではなく、作り手側の「作りたい」という思いから生まれた商品ですね。

根津 はい。完全にプロダクト・アウトの商品です。といっても、僕はマーケティングを非常に大事だと思っており、否定するつもりは全くありません。しかし一方で「マーケティングは答えを教えてくれない」ということはきちんと認識すべきだと思うのです。お客様は現状の不満は話してくれますが、答えを知っているわけではない。赤じゃない、青でもない、じゃあ、答えが黄色なのか紫なのかといえばそれは分からない。工夫次第で虹色のものができるかもしれない。マーケティングはあくまで土台。その上にどんな家を建てるかは、作り手がちゃんと想像力を働かせて構築しなければならない。お客様だって、自分が言った通りのものが出てきても面白くないですよね。「確かにそうは言ったけどさ……」ってガッカリするんじゃないでしょうか。

「作りたいもの」と「市場に求められるもの」との間にギャップが生じることはありませんか。

根津孝太
ツナグデザイン取締役。デザイナー/クリエイティブコミュニケータ。

1969年東京生まれ。千葉大学工学部卒業後、トヨタ自動車を経て、05年、znug design を設立。トヨタでの代表作はコンセプト開発リーダーを務めた愛・地球博のi-unit。現在は自動車をはじめとする工業製品のコンセプト企画とデザインを手がけながらミラノサローネや100%デザインなどで作品を発表。2011年パリ「Maison & Objet 'now'」経済産業省「JAPAN DESIGN+」出展。グッドデザイン賞、ドイツiFデザイン賞など受賞多数。2014年よりグッドデザイン賞審査委員。

根津 ゼクウはプロダクト・アウトの商品だと言いましたが、だからといってマーケットを見ていないかというとそうではありません。というのも、僕は山奥で引きこもって生活しているわけではなく、普通に生活をする中で「こういうものが欲しいな」と発想したわけですから。マーケットの一員である僕が「これがあればワクワクする!」と心から思うものを作ったら、少しは喜んでくれる人もいるだろうし、中には買ってくれる人もいるでしょう。いわばゼクウは「普段の生活」というマーケティングから生まれた商品なんです。

 とはいえ、これはゼクウの場合であって、クライアントがいる仕事の場合、大規模なマーケティングデータを基礎にしたり、先方の要望を提示されたりする場合も多いですから、そのバランスを取る必要があります。僕はその要は「コミュニケーション」だと思うんです。

 たとえば、アフタヌーンティーとの共同開発でランチボックスを作った時は、まさにスタッフの皆さんとアイデアを出し合いながら作業にあたりました。そこでは、当然マーケティングの話も出るし、個人的な思いも語られる。しかし両者は明確に分けられるものではありません。マーケットに生きている以上、生きることそのものがマーケティングですから、「作りたいもの」と「求められるもの」を峻別する二元論は非常に危険です。商品として流通させる以上、コストは無視できないし、技術的な制約もある。そういう与件をにらみつつ「自分としてはこうしたい」という思いを混ぜて、よりよいものに近づけていくしかありません。