小さくても個性的で、快適な家が欲しい――その実現に向けて、パートナーに女性建築家を選ぶケースが増えている。女性ならではの視点、設計上の工夫は、どんなところに発揮されるのだろうか。

会話やメールを通じ
家を創り上げていく

ノアノア空間工房
大塚泰子さん

 建築家の大塚泰子さんは、「ちっちゃな家」シリーズで人気がある杉浦伝宗氏の事務所を経て、2003年に独立した。最初は自宅で、自身のホームページをつくり、「こんなことができます」とアピール。メールのやり取りに始まり、1棟ずつ作品を増やしていった。現在は年間6~10棟を手掛けている。

「都心に戸建てをと考えると、どうしても敷地面積は限られてしまいます。価格や広さが気に入っても、旗竿地(注)や傾斜地など条件が難しい土地も多く、『まずは相談を』というところから話がスタートすることが多い。私は“駆け込み寺”のような存在ですね」と大塚さん。

 狭小地の建築に不安を持つ人に対し、まずはメリットとデメリットをきちんと説明。その上で「一般に欠点だと思われている旗竿地などの要素は、欠点というよりは個性。うまくつくれば、他よりもすてきな住宅になる」と、具体的にアドバイスしていく。

 大切なのは人間関係。どんな家を求めているのか、話をしながら、「その人の暮らし」を思い描き、形にしていく。その際は「こんな感じ」という微妙なニュアンスを損なわないよう、くみ上げている。

家族の絆を育む家
その縁の下の存在に

小鳥のさえずりが聞こえてきそうな外観が特徴のコトリハウス。旗竿敷地かつ、狭小住宅で、四方囲まれた条件の、若い夫婦と小さな赤ちゃんの住まい

「僕の場合、建築家と家を建てたいという希望が初めからあって、それも全部任せるのではなく、自分も参加したいと思っていました。大きな家は無理でも、オーダーメイドのよさは生かしたい。大塚さんはわがままを受け止めて、できる限り取り入れてくれ、おかしいところははっきりと指摘してくれました。敷地の狭さに対しては天井を高くし、光や風を大事に、開放感が高い家をつくってくれたので、とても気に入っています」と語るのは、大塚さんと注文住宅を建てた大田区に住むNさん。

 建築家に依頼というと、「敷居が高い」と感じる人が少なくないが、女性建築家の場合は構えることなく、コミュニケーションを取りやすいのが魅力。

「ローコストを望まれる場合も、例えば無垢材の中で一番安いものを選ぶなど、木材の性質を生かしながら空間にいい効果を生むように、考えていきます」(大塚さん)

敷地面積94.72平方メートルの旗竿地に、家族4人が快適に暮らせるようにと設計した「うさぎの家5」

 設計は料理と一緒で、「この素材でなければならない」という決まりはない。「材料の値段で味が決まる」わけでもない。大塚さんは吟味した素材でおいしい料理をつくるように、素材の個性を生かして家をつくっていく。

 目指すのは「心と体に優しい、空気感のある住宅」。そして「家族の絆を育む家」であることだ。そのために、縁の下の力持ちとして仕事を続けている。