10月31日に日銀が金融緩和第2弾を行ないました。投資家の多くが予想していなかった早いタイミングでのサプライズであり、また結果的にGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の国内株投資割合の増大とセットとなったため、株高と円安が進み、消費税増税による消費の低迷に直面する日本経済と政権にとって、久々の明るいニュースとなりました。金融緩和一発で日本経済の雰囲気をガラッと変えたと言っても過言ではありません。
その意味で、黒田総裁の今回の決断は高く評価すべきです。しかし心配なのは、この英断が金融のみならず、日本経済の再生に不可欠な産官学のガバナンスまで緩めてしまうのではないかということです。
改革はさらに後退、骨抜きへ
政府のガバナンスの緩み
そもそも金融緩和は財政出動と同様に短期的な景気浮揚策であり、産業や企業の競争力を強化する訳ではないことを考えると、政府はそれらの政策で作り出した時間的猶予の間に正しい成長戦略、具体的には岩盤規制の改革などの構造改革を進めなければならないはずです。
しかし、霞ヶ関の官僚は既にだいぶ前から緩みきっており、改革を進める気などほとんどないのですが、金融緩和によってそれが更にひどくなった感があります。私のところに日々入ってくる情報からそう感じられますし、6月の成長戦略で決定したはずの混合診療の解禁が骨抜きにされつつあるという報道がその証左です。
そして、そうした緩みは国会答弁からも感じられます。安倍首相は今週の国会審議で、「株価上昇が大きな資産効果を呼び、消費に結びつき、経済の成長にプラスになる」と答弁していますが、本当にそうでしょうか。
昨年のように半年で株価が倍になる位に急速に上昇するならともかく、今回のように株価が1割程度上がっただけでは、個人金融資産に占める金融投資の割合の低さも考えると、金融投資を行なっている一部の富裕層の懐は潤うにしても、金融投資に縁のない多くの中低所得者層にはあまり恩恵はないはずです。
即ち、「株価上昇が大きな資産効果を呼び」とまで現段階で断言するのはちょっと無理があります。日経などのメディアの報道が金融緩和した途端に明るいトーンになったので、それに合わせて調子に乗ったのでしょうが、それでもそんな安直な答弁を官僚が用意し、それを総理も読んでしまうというのは、官の側のガバナンスの緩みに他ならないのではないでしょうか。