世は妖怪ブーム。ハロウィーンの日、黒田日銀の「追加緩和」という妖怪が飛び出した。市場はビックリ。円相場は1ドル=113円を抜け、東証ダウは一時1万7000円を突破。NY,ロンドン、東京とマネーの熱狂が地球を回った。

 妖怪は倒れそうなアベノミクスを抱き起そうというのだ。今よりきつい劇薬を飲ませ「国債をすさまじく買うぞ」「株や不動産も買い上げるぞ」と宣言した。こんなことをいつまでやるつもりなのか。株高も円安も、日本経済の回復にはつながらないことはこの一年の実績が語っている。

政権に中央銀行がひざまずく

 妖怪は「もっとやればそのうち効くさ」とうそぶくが、劇薬は覚せい剤のような副作用がある。大量投与は日本経済の健康とモラルを破壊する。真っ先に問われるのが日銀のモラルではないか。「通貨価値を護る」という使命に目をつむり自国通貨の下落を煽り立てる。「マネタイゼーション」と呼ばれる事実上の国債の日銀引き受けがより強まる。「これだけはしてはいけない」と言われてきた非常識政策の総動員。忍び寄る最悪の事態を意識しつつ、政権の延命に中央銀行がひざまずく姿を、この際しっかり見ておこう。

 黒田日銀総裁が明らかにした追加緩和は、マネタリーベースと呼ばれる銀行への資金供給を、これまでの年間60~70兆円から80兆円に拡大する。50兆円を目標にしていた長期国債の買い入れを30兆円増やし80兆円にする。株価指数に連動する上場投資信託(ETF)と不動産投資信託(J‐RIET)の買い上げを3倍に増やす。

 金額が大きすぎてピンとこない人も多いだろう。公正な価格形成が行われるべき市場に日銀がお札を刷って猛然と介入する。年間80兆円のカネを民間に吐き出し国債の値段を上げ(長期金利を下げる)、東証株価を上げ、不動産価格も上げようというのである。

 長期金利や株価は、日銀の仕事ではなかった。景気回復・デフレ脱却のためなら手段は選ばない。効き目がないならもっとやる、というのが今回の追加緩和だ。無理矢理でも、見せかけでも、株価が上がり長期金利が下がれば国内の投資は活発になる、という筋書きを突き進む。

 これは蟻地獄ではないのか。日銀が買うことで債券や株の市場価格が維持される。日銀マネーに依存した上げ底の価格が形成され、買いが止まれば国債も株も値下がりする。日銀は、ひたすら足を動かし、這い上がろうとするアリのように市場にカネをつぎ込む。足が止まれば餌食になる。