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おもてなしで飯が食えるか?
【第5回】 2014年12月10日
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山口英彦 [グロービス マネジング・ディレクター、ファカルティ本部長]

マーケティングが苦手な「おもてなし」の扱い方【前編】

おもてなしへの評価は客観ではなく、主観で決まる

(2)認知作用を利用する

 おもてなしを提供する側として覚えておきたいのは、顧客の便益実感は客観的なサービス内容ではなく、受けたサービスに対する主観的な評価である点です。従って、人間の様々な認知作用を考慮すると、同じおもてなしに関しても便益を一段と強く感じてもらうことが可能です。

 接客の現場で広く知られているのが、「顧客の名前を呼ぶ」効果です。自分の名前を覚えてもらえていると誰でも嬉しいものですし、おもてなしが「わざわざ自分のために供されたもの」という実感も湧きやすくなります。たとえ従業員が顧客の名前と顔を覚えられなかったとしても、予約状況を事前チェックしたり、ロイヤルティプログラムがある場合には顧客にIDを提示してもらったりすれば、各顧客の名前は容易に認識できるはずですので、ぜひ実践したいものです。

 あるいは「終わりよければ全てよし」もサービス現場でよく言われます。この法則に基づけば、同じおもてなしをするにも、なるべく一連のサービス体験の終盤に提供した方が、顧客の満足は一段と高まります。旅館や高級レストランの従業員が、顧客が出発する際に丁寧にお見送りするのは、やはり効果があるのです。あるいは先の美容室での私の体験のように、気遣いをした瞬間に告げるのではなく、提供プロセスの終盤になって「先ほど~しました」と伝えられた方が、サービス体験の全体を通じた満足度は上がります。

(3)おもてなしが「日常」であることを示唆する

 顧客にとっては「自分のためにもてなしてくれた」ことがわかるだけでも嬉しいものですが、それが単なる偶然ではなく再現性が高いとわかれば、「また利用してみよう」と顧客のロイヤルティが増します。あるいは後編で口コミについて触れますが、「自分だけではなく、他の顧客が利用しても間違いなく満足してもらえるだろう」との手応えがあれば、知人への紹介意欲も高まります。

 顧客がおもてなしの再現性を認識するには、自身が受けたおもてなしが、その従業員や店の日頃からの接客姿勢や、その企業が持っている仕組みから生まれた「日常的な営み」であると確認できるとよいのです。例えば飲食店に食事に行って、自分好みの食材選びや味付けをしてくれたと満足している時に、店側から「お好みに合わせて料理しますので、どんどんリクエストしてください」と言われれば、次回もきっと柔軟に対応してくれるという期待感が高まってリピート意欲が高まるものです。

 あるいはホテルなどで従業員が素晴らしい対応をしてくれたことを顧客が褒めた際に、単に「どういたしまして」では十分ではありません。例えば「当ホテルには(おもてなしを推奨する)社内行動規範がございます」とか、「自分は未熟者で、先輩従業員にいつも注意されている」といった具合に話せば、顧客としてはホテルの従業員教育の徹底ぶりを察知し、「知人を紹介してもこのホテルなら大丈夫そうだ」という安心感を得られます。

 以上、おもてなしの便益をその場で顧客にしっかりと認識してもらうためのコツをいくつか紹介しました。もしかしたら随分とハウツー寄りの議論に聞こえたかもしれません。でも、こうしたコミュニケーションの細部に落とし込めているか否かが、平凡なサービス企業で終わるか、顧客にとって特別な店/企業となれるかを決めるのも、また事実なのです。

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山口英彦[グロービス マネジング・ディレクター、ファカルティ本部長]

東京大学経済学部卒業、ロンドン・ビジネススクール経営学修士(MBA、Dean's List表彰)。 東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)、ボストンコンサルティンググループ等を経て、グロービスへ。現在は同社の経営メンバー(マネジング・ディレクター/ファカルティ本部長)を務めながら、サービス、流通、ヘルスケア、エネルギー、メディア、消費財といった業界の大手企業クライアントに対し、戦略立案や営業・マーケティング強化、新規事業開発などの支援・指導をしている。また豊富なコンサルティング経験をもとに、経営戦略分野(新規事業開発、サービス経営、BtoB戦略など)の実務的研究に従事。米国のStrategic Management Society(戦略経営学会)のメンバー。 主著に『法人営業 利益の法則』(ダイヤモンド社)、『サービスを制するものはビジネスを制する』(東洋経済新報社)、『日本の営業2011』(共著、ダイヤモンド社)、『MITスローン・スクール 戦略論』(共訳、東洋経済新報社)。


おもてなしで飯が食えるか?

オリンピック招致の最終プレゼンを契機に、各所で注視されている「おもてなし」。日本人の細やかな心づかいを製品、サービスに反映させて収益向上につなげようと考える企業は多いと思うが、そこに落とし穴はないか?グロービス経営大学院の山口英彦が近著『サービスを制するものはビジネスを制する』のコンセプト等も反映させながら問いかける。

「おもてなしで飯が食えるか?」

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