人間は誰しも
自分だけが大変だと
思ってしまいがち

田中 うちの会社だって、上手くいってると見てくれる人もあるんだけど、実際のところ、上手くいっていない時期も長くて、逆境の歴史です。

杉本 どうして? 上手くいってないはずがないでしょ?

起業家対談シリーズ第5回 田中良和<br />「自分だけが大変なわけじゃない」と、気づいた時田中良和(たなか・よしかず)[グリー代表取締役会長兼社長]1977年生まれ。日本大学法学部を卒業後、ソニーコミュニケーションネットワーク株式会社(現:ソネット株式会社)を経て、2000年2月、楽天株式会社に入社。2004年2月に個人の趣味としてGREEを開発。同年10月、楽天株式会社を退社。同年12月、グリー株式会社を設立し、代表取締役に就任。2014年9月、代表取締役会長兼社長に就任。

田中 いえいえ、そうなんですよ。たとえば、グリー株式会社を立ち上げた当時はミクシィがものすごい勢いで伸びていて。うちも成長はしてたけど、全然倍率が違って「上手くいっていないベンチャー」に色分けされた。ゲームをやり始めても別にもっと伸びてる会社があって。スマートフォンやグローバル展開への方向転換をやって、トップカンパニーだと認められるようになったのは、2010~2011年くらいの話でしかない。会社がスタートしてから7年間くらいダメ会社呼ばわりされてきたんです。

杉本 そういえば、雑誌のインタビュー記事で「逆境こそが我が社の歴史」という田中さんの言葉を読んで鳥肌が立つくらい素晴らしい言葉だと思ったことがある。企業経営って、終わりのないマラソンみたいなもので、ひたすら戦い続けていかなきゃいけないんですよね。業界一位になったり、圧倒的なシェアをとったからといって、安住なんかしていられない。

田中 飲みながら「会社が大変でさ」みたいな話をしたら、杉本さんにものすごく怒られたことがあったよね。俺は民事再生して自己破産した。数十億の個人保証抱えた先輩もいる。お前の会社が「大変だ」なんて口にすること自体、世間を馬鹿にしてるのかって。

杉本 言いましたね。田中さん、5秒くらいフリーズしてた(笑)。

田中 人間って、誰でもそうだと思うけど、自分だけが大変な気持ちになるじゃないですか。誰もわかってくれないなって。でも、杉本さんの言葉で、こんなことで大変だなんて思ってるようじゃ話にならないなと痛感した。

杉本 自分は甘かったな、と?

田中 甘いというより、ズレてるっていう感じかな。経営者って、もっと強く逆境と向き合わなきゃいけないってことを、この本を通じて改めて教えられた気がしてます。