あえて言うなら、インフレ目標によって管理された「規律ある財政ファイナンス」を、わが国は必要としている。

 少数意見であることを承知でもう一言付け加えると、「財政ファイナンス」ということに大きな心理的インパクトがあるなら、日銀は早い段階で赤字財政下の金融緩和政策を「実質的に財政ファイナンスだ」と宣言してしまった方が良かったのではないかとも考えている。その方が、国債の買い入れ額が小さく済んで、将来の出口戦略が楽になったかもしれない。

 さて、古い言い回しだが、意図的にインフレを起こす政策を「調整インフレ」と呼ぶ。インフレが問題だった時代にできた言葉でもあり、あまりいいイメージの言葉ではないが、そもそも不換紙幣という制度は人工的な仕組みであり、通貨の価値を何らかの目的を持って「調整」することは必要なことだ。

 以下、日本が調整インフレの時代に入った(かもしれない)という仮説を立てて、これからどうなるのかを考えてみよう。

象徴的な公的年金の
「マクロ経済スライド」

 年の瀬の『読売新聞』(12月27日朝刊)に、「年金抑制 来年度から」という見出しで、公的年金の「マクロ経済スライド」が発動される旨の報道があった。マクロ経済スライドは、2004年度の年金改正で導入された年金給付の抑制策で、年金支給額の物価スライドを物価上昇率マイナス約1%に抑制する仕組みのことだ。

 しかしこの仕組みは、物価が十分上昇するときには発動されるが、物価上昇が不十分で名目の年金給付額が減る場合には発動されないように設計されていて、その後日本経済はおおむねデフレないしゼロインフレだったので、これまでに一度も機能したことがなかった。

 マクロ経済スライドは、本来早急に必要だったはずの公的年金給付の調整を無為に10年遅らせた、政策としては間違いなく失敗作だったと思うが、「インフレのときに、年間に1%くらいなら、痛みを感じることが少なく、経済条件の調整ができるのではないか」と厚労省の官僚さんが(たぶん)考えに考えた、「ある種の解」の見本であるように思う。