信頼している部下から辞表が提出されるのは、課長にとってはショックなこと。しかしそれは、自らを振り返る機会でもある。部下が悩みを打ち明けられるような関係を築けていただろうか? 真の信頼関係があっただろうか? ある課長の悩みと、著者自身の若き日の失敗から学ぶ。

部下の悩みを知っているか?

 あなたの部下は、あなたに悩みを打ち明けるでしょうか?

 よく悩みを言ってくれる。それに対してアドバイスをして、部下はこころよく受け入れ、その悩みを解決している――こう自信を持って言える人は、立派な管理者です。

 でもそれは、自分がそう思っているだけの独りよがりかもしれません。

 嫌なことを言うと思うかもしれませんが、じつはこう考えたくなることがあったのです。

 最近、研修に参加した人で、悩んでいた課長のお話です。

 とても信頼していた部下がいたそうです。よくコミュニケーションも取れ、部下はあれこれ悩みを言ってくれていました。それに対して真剣に相談に乗り、部下との関係はうまくいっていたと思っていました。ところが、急に辞めてしまったのです。

 いくら説得しても、不満を聞き出し善処しようとしても、辞める意志は固く変わりませんでした。

「いいえ、会社にも、仕事にも不満はありません。ただ新しい世界で再挑戦してみたいのです」
「それだったら、いまの会社でもできるよ。きみの希望を言ってごらん。内容によってはすぐとはいかないが、きみには力があるし実績もあるから、いずれ希望の仕事に就けると思う」
「いいえ、それでは、ご迷惑がかかります。ともかく決意したことですし……」

 こう言って辞めていったそうです。この課長は、部下のほんとうの悩みは知らなかったと反省されていました。