「叱るべきときには叱る」ことを上司が躊躇する時代になりました。なぜなら、叱られた部下が「追い詰められた」と感じて、予想もしえない「困った状態」になったり、問題を引き起こす可能性があるからです。最近でいえば、記者会見で記者に質問されたときに、追い詰められたと感じて「泣き」「叫ぶ」行動に出た元地方議員のケースが典型的かもしれません。
あくまでも“育成する”という観点から部下を叱ったにもかかわらず、結果的に周囲を巻き込み、大事件に発展するくらいなら、上司も部下を叱らず「ソフト」な指導に留めておく方が得策と考えるのはやむを得ないこと。しかし、本当にソフトな指導をするだけでよいのでしょうか? 今回は、現代社会における正しい部下への指導のスタンスについて考えてみましょう。
遅刻、クレーム、報告書の記入漏れ…
あなたは部下を注意できていますか?
「人間は努力しなければならないが、それ故に失敗もするものだ」…と語ったのは、かの有名な文豪ヨハン・ゲーテ。確かに、仕事をしていれば失敗やミスはつきものです。
さて、あなた(上司)の部下が、
・報告書の記入忘れ
・取引先からのクレーム
・会議への遅刻
など仕事でミスをしたとき、どう対応していますか? 当然ながら注意や指導をする必要があります。上司が部下のミスを見逃すのは、仕事の放棄と同じことです。
そもそも人はミスを犯す生き物です。2005年に起きた福知山線脱線事故の検証において「人はミスを犯すもの」という前提に立ったJR西日本安全研究所の研究成果は話題になりましたが、大事なのは、
<ミスが起きない前提で組織マネジメントを考えてはいけない>
ということ。仮にそれが会議の遅刻であったとしても、そもそもミスを単純に「起こりえないこと」と考えてはいけないのです。そこで、ミスが二度と起きないように上司は指導をしなければなりません。当然ながら素直に受け止めてくれることを願って、
「同じミスをしないように手順の見直しをしなさい」
と指導の言葉をかけます。ミスに対して怒りの感情をぶつけているのはありません。あくまで次のミスを撲滅することが目的。そんな指導について、やさしく、愛情を感じるソフトなものであれば、
<これは自分の成長を期待して言ってくれているんだろうな。次からミスをしないように心掛けよう>
と、部下も前向きに受け止め、実行することでしょう。まさに人材育成の理想的な形と言えます。実際、こうしたミスをよい機会と捉えて、きちんとした指導を行っている職場は、存在しています。