「あれも大事、これも大事」と悩むのではなく、「何が本質なのか?」を考え抜く。そして、本当に大切な1%に100%集中する。シンプルに考えなければ、何も成し遂げることはできない――。LINE(株)CEO退任後、ゼロから新事業「C CHANNEL」を立ち上げた森川亮氏は、何を考え、何をしてきたのか?本連載では、待望の初著作『シンプルに考える』(ダイヤモンド社)から、森川氏の仕事術のエッセンスをご紹介します。

「動物園」で飼育されるような人生はイヤだ

「お金」と「名誉」──。
 これは、人間にとって非常に魅力的なものです。

 しかし、僕は、これらをモチベーションに働くのはむしろ危険だと考えています。理由はシンプルです。「お金」や「名誉」を手に入れると、それを守ろうとしてしまうからです。その結果、新しいチャレンジができなくなり、自分の成長を止めてしまう。それは、とても恐ろしいことだと思うのです。

 かつて、僕は怖くなったことがあります。
 日本テレビで働いていたころのことです。当時、僕は驚くほどの高給をもらい、日本テレビに勤めているというだけで周りからチヤホヤされていました。しかし、広く社会を見渡せば、自分の実力がどの程度のものか痛いほどわかっていました。自分の本当の市場価値に比べて、あまりに高い給料とステータス。「このままじゃ、ダメになってしまう」と怖くなったのです。

 だからこそ、インターネット・ビジネスの世界で自分の価値を高めたいと、より一層仕事にのめり込んでいきました。そして、日本テレビはインターネット・ビジネスの専門部署までつくってくれました。張り切った僕は、大学院でMBAを取得。ネットを活用した新規ビジネスを次々と仕掛けていきました。

 しかし、社内のカベが厚かった。なかなか、思うように仕事を進めることができなかったのです。どうしてもテレビ局の本業は放送事業。僕がやろうとしていたインターネット・ビジネスは、放送事業に携わっている人達にとっては、ある意味邪魔な存在だったのです。そのことに気づいた僕は、再び退職を決意。33歳のときでした。

 まったく躊躇しなかったと言えば嘘になります。会社に残れば、将来の生活も保証され、社会的なステータスもある。それを手放すのが惜しい気持ちもありました。

 だけど、このとき思いました。それにしがみついて、やりたいことをあきらめるような生き方はしたくない。それはまるで、動物園で飼育されるような人生だ、と。