「お金」や「名誉」を動機にする人は、成長できない

LINE(株)CEOを退任した森川亮氏が初めて明かす!<br />「動物園」を出よう。「野生」を生きる者が生き残る!1967年生まれ。筑波大学卒業後、日本テレビ放送網に入社。コンピュータシステム部門に配属され、多数の新規事業立ち上げに携わる。2000年にソニー入社。ブロードバンド事業を展開するジョイントベンチャーを成功に導く。03年にハンゲーム・ジャパン(株)(現LINE(株))入社。07年に同社の代表取締役社長に就任。15年3月にLINE㈱代表取締役社長を退任し、顧問に就任。同年4月、動画メディアを運営するC Channel(株)を設立、代表取締役に就任。

  オリのなかで、飼育員の言うとおりにしていれば、毎日時間どおりにエサが与えられます。それは、とても安全でラクな人生かもしれない。だけど、自分が思うように生きることはできない。なにより、サバンナに放たれたとき、自分の力でエサを獲得できなくなってしまうのが怖い。だから、僕は動物園から出ることにしたのです。

 転職先はソニー。年収は半減しましたが、気になりませんでした。当時のソニーが志向していたのは、テレビなどのハードウェアと音楽や映画などのコンテンツをネットで結びつけること。まさに僕がやりたいことだったからです。

 ところが、ここでも社内のカベが立ちはだかりました。「なぜ、テレビをネットにつながなければならないのか?」などと既存部門から強い抵抗を受けたのです。そこで、ちょうどそのころ社内で立ち上がったブロードバンド・サービスを構築するジョイントベンチャーに参加。なんとか年商数十億円を超えるビジネスに育てることに成功したのですが、その瞬間に本社から退職間際の方々が送り込まれてきました。もっと自由にやりたい……。そう思った僕は、このささやかな成功も捨てることにしました。

 そして、再び転職。入社したのがハンゲーム・ジャパン株式会社でした。36歳で平社員、年収も再び半減。知名度もないベンチャー企業でしたから、これを機に僕から離れていった知人もいました。しかし、ここでようやく僕は、自分の力を思う存分発揮できる場所を手に入れることができたのです。

 僕は、こんなキャリアを歩んできました。
「やりたい仕事」を求めて努力を繰り返してきたし、自分の価値を高められると感じたときには、「お金」や「名誉」も捨てて転職してきました。そして、ゼロから結果を出さなければならない状況に自分を追い込んだときに、自分の能力が発揮されて、それを乗り越えたときにものすごく成長できることを実感してきました。

 人間は弱い生き物です。「お金」や「名誉」を与えられるとそれに満足して、自らをストレッチして成長するのは難しい。そして、自分の市場価値より高い「お金」と「名誉」にしがみつくようになる。だけど、その結果、社会では通用しない存在になってしまう。だからこそ、あえて僕は、厳しい場所に身を置くようにしてきました。人間は、昨日より今日、今日より明日と成長できることこそが幸せだと思うからです。