ハーバード大学卒業後、マッキンゼー、BIS、OECDなどを経て、現在は京都大学の教壇に立つ河合江理子氏と、ボストン・コンサルティング・グループ、ゴールドマンサックス証券を経て、スター・マイカ代表取締役会長を務める水永政志氏による対談。日本、そして世界を知る両氏から、これからの時代に求められる人材像などが語られた。対談は全4回。

リスクを負わないベンチャー経営者への疑問

河合 私の授業でお話しいただいたとき、学生時代の起業だけではなく、2度目に起業したときのお話もうかがいました。

水永 ゴールドマン・サックスを退職して最初の起業ですね。失敗したほうの(笑)。

河合 一度、事業に失敗してからは、まずは小さく始めることを学んだというお話は学生からも反応が良かったですよ。そのときに、リスクに対する考え方が変わったんですか?

水永 それは明らかに変わりましたね。本当の意味での失敗は、それが初めてだったかもしれません。崖っぷちまで行ったのはね。ここまで落ちるのかと思いましたよ。毎月、何千万円も出ていくわけです、自分の財布から。その恐怖を目の当たりにする経験は普通ありませんよね。

河合 本当にそうですね。

水永 今のベンチャーの中には、自分のお金は安全なところに置いておいて、自分の貯金にはなるべく手を付けない経営者も多いように感じます。

河合 株主からお金をもらう(笑)。

水永 そう。ほんの一部を自分で出して、あとは株主からです。うまいこと高いバリュエーションで入れてね。

河合 そうですね。

水永 ベンチャーキャピタル(VC)からもさらに高いバリュエーションで入れて、自分は入れない。さらに、会社は赤字なのに給料はたっぷり取ったり、会社の経費をたくさん使ったり。それはとてもサラリーマン的な起業だと思います。そしてそのケースでは、「失敗しても株主は自己責任だ」と言ってまったく悪びれない人が多いです。

河合 マーケットが良ければ、それも許されるんでしょうね。

水永 そう、それに気がつく子がいます。そのほうがいいじゃないか、安全じゃないかと。ある意味では賢い起業家かもしれません。それは構いませんが、本当の背水の陣ではありませんよ。私の場合、ある程度行くとこまで行ってしまったので、引けない感じでした。このまま行くと自分もドボンしなきゃいけなという恐怖感を見てからの2回目は、すごく慎重になりましたね。