豊田通商の養殖クロマグロは
経理マンのアイデアで生まれた

やりたいことを実現するには、タイミングと分野・人脈がカギを握る
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 会社を辞めずとも、自分のやりたいことを実現する。すなわち、「会社から愛される方法」を自ら会社に提案する。そのためには、「天の時、地の利、人の和」を見極めることが必要だ。

 天の時とはタイミングである。早すぎても遅すぎてもうまく行かない。事業がうまく市場に受け入れられるという意味でのタイミングもあるし、提案が会社に受け入れられるかどうかという意味でのタイミングも大切だ。そこを見極めないといけない。

 地の利は、事業領域の選択のことである。新規事業は、自社に強みのない飛び地ではうまく行かない。強みを活かし、足りない部分を提携などで補うことのできる隣接地、あるいは強みをこれまで活かしていなかったフィールドに足を延ばすという形が新規事業の常道だ。その原則は守る必要がある。加えて、前回示したように、「ラフに近いフェアウエイ」というベストな場所をどう見つけるか、だ。会社が呑みやすい事業領域を提案することが大切になる。

 そして「人の和」。和は“輪”でもある。これも前回お話した最初の一人である相談相手から始まり、いかに協力者の輪を広げていけるかが最後の鍵を握る。

 この3つが揃って初めてスタートラインに着けるのだ。

 たとえば豊田通商のクロマグロの養殖もそんな事業の1つではないだろうか。

 2010年、豊田通商は近畿大学と技術提携をして、長崎県五島市にクロマグロの稚魚を体長30cmほどまで育てる育成事業に踏み出した。ちなみに、この体長30cmの状態を幼魚(ようわ)と言うそうだ。

 近畿大学は養殖マグロのパイオニアで、02年に世界で初めてマグロを産卵させ、その卵から育てたマグロをまた産卵させるという循環型の養殖に成功した。

 両社は昨年、技術協力をさらに推し進め、卵から稚魚まで育てる人工種苗事業に進出した。そのために同社は100%子会社を五島市に設立し、稚魚育成用の水槽を建設した。近畿大学は技術員をこの会社に送り込んでいる。将来的にはクロマグロの完全養殖を目指すとしている。

 豊田通商側の提案者は一人の経理マンであったという。その若手社員の研修での提案が上司の目に留まり、実現した事業だと聞く。その社員は、それまで事業開発などの経験はなかったのだが、昔から環境保全に関心を持ち、折に触れ、そのことを口にしていたようだ。