学生向け就職説明会も佳境を迎えていた2月下旬。“あるビジネス”をテーマにしたリクルートイベントが東京・霞ヶ関で開催された。それが「アグリク」だ。
「アグリク」とは、農業ビジネスの業界研究と合同説明会が行われるイベントのこと。全国から有名トップ農業法人が訪れ、農業ビジネスに関心を寄せる学生に対してリクルート活動を行った。同イベントを主催したコネクト・アグリフード・ラインズの熊本伊織社長はこう語る。
「今回は学生の申込者数が150名を越えました。申込者数が2ケタだった前回、前々回(昨年6月、9月)と比較しても増加しています。とても盛り上がりました」
農業関連の就活イベントと聞くと、農業大学や農学部の学生が参加者の中心ではないか、と思ったかもしれない。しかし今回のイベントで驚くのは、東京大学や早稲田大学、慶応義塾大学といった官公庁や大手企業を目指すことの多い上位校の文系学生が数多く参加していた点だ。
しかも、参加した学生の多くは実家が農家ではなく、親は「都会のサラリーマン」という人も少なくない。ほんの数年前まで、新卒の就職活動で「農業」を意識することはほとんどなかったにもかかわらず、なぜ今、都会の文系学生までが「農業」を志すようになったのだろうか。
総合商社、大手小売りが続々参入
同時に非農家出身の若者が農業界へ
2009年に企業の農地借入を原則自由化する「改正農地法」が施工されたことを追い風に、近年、大手企業の農業進出が本格化している。例えば、総合商社では豊田通商が宮城県栗原市で地元農家と国内最大規模のパプリカ栽培を行っており、今月13日には三井物産が山梨の農業生産法人と共同で国内最大級のトマト生産工場を建設すると発表した。また、大手小売りチェーンでは、セブン&アイとイオンがそれぞれ子会社として農業法人を立ち上げ、生産した商品を自社グループの店舗で販売を行っている。
そんな大手企業の参入で、新たに農業に携わる人の属性も変わりつつある。農林水産省が新規就農者の動向を調べた調査によると、新規就農者の多くは自営農業就農者(農家子弟であって、自家農業に就職する者)であるものの、近年は雇用就農者(農業法人等で雇用される)が増加傾向であり、しかもそのうち非農家出身者の割合が79.3%に上っている。さらに年齢は39歳以下が62.7%と若者の参入が進んでいることがわかる(平成24年度新規就農者調査)。
これまでであれば農業とは無縁だったと思われる若者が就農しやすくなったように思われるが、農業法人の経営者たちは課題を抱えていた。前出の「アグリク」を主催し、農業コンサルティングを様々な企業に行っている熊本さんは、先進的な取り組むも行う農業法人の経営者たちからこんな切実な声を寄せられていた。
「農作業ができる人材だけでなく、幹部候補になってくれる若い社員がほしい」