「そもそも、これは何なのか?」という問いかけを忘れない

僕がソニーに入社して配属になったのは、新規事業部。
テレビやモバイルをインターネットとつなぐことによって、新しいサービスを生み出すのがミッションでした。これは、僕がずっとやりたかったこと。毎日のように企画書をまとめて、テレビ事業部などに提案を重ねました。しかし、どうにも議論が噛み合いませんでした。
彼らは、テレビに関する超一流の技術者でした。ところが、彼らは「なぜ、テレビをネットにつなげなければならないのか?」「テレビとはそういうものではない」の一点張り。いわば、彼らにとってテレビとは、「電波で映像を受信する仕組み」だったのです。
しかし、テレビとはそもそもそういうものなのでしょうか?
僕は、テレビを発明した人はそんなことを考えていなかったと思います。おそらく、彼らは「遠く離れた場所に映像を届ける技術」を開発しようとした。それが、世界中の人々のニーズでもあった。そして、そのときに使える技術が電波だった。だとすれば、電波はあくまで手段であって本質ではない。ネットとつなげれば、テレビの可能性は格段に広がるはずなのです。
ところが、人はしばしば、「今あるもの」に影響を受けてしまう。電波から受信するテレビがあれば、それがテレビだと錯覚してしまう。そして、本質からズレた努力をし始める。たとえば、テレビ業界は長年、画質の向上が至上課題でした。そして、ハイビジョンが生まれ、最近では4Kが生み出されました。そこには、最先端の専門知識がふんだんに活用されています。しかし、それは本当にテレビの本質でしょうか? 本当に人々が求めているものなのでしょうか?
だから、僕は常に、この問いかけを大切にしています。
「そもそも、これは何なのか?」。ややもすれば、“専門家”がバカにしがちな素朴な問いかけですが、この問いかけこそが、僕をものごとの本質に立ち返らせてくれるのです。