世界経済の潜在リスクをあぶり出したギリシャ問題。「合理性」とは無縁のギリシャの動きは誰にも読めない。7月5日に行われる国民投票で、情勢はますます混迷するだろう。(「週刊ダイヤモンド」編集部 大坪稚子、鈴木崇久、竹田孝洋、山口圭介)
ギリシャ危機はそう簡単には終わらない。何しろ、ギリシャは公的債務だけで3171億ユーロ(対GDP比177%、約43兆円)も抱えているのだから。
ギリシャ危機の発端は、2009年1月に巨額の財政赤字が発覚したことだ。ギリシャ国債が暴落(利回りは上昇)して資金調達ができなくなり、EU、ECB、IMFに支援を求めざるを得なくなった。
なぜ経済規模からすれば小国のギリシャが、身の丈を超えた借金を抱えることになったのか。
同国は、就労者の7割が公務員、年金や失業給付などの社会保障が手厚く財政負担が重かった。02年のユーロ加盟がギリシャの放漫財政を加速させる。ドラクマという弱い通貨しかなかったギリシャが、ユーロという強い通貨を手にしたことで、信用力を背景に低金利で資金を調達できるようになり、赤字国債の発行が可能になった。
08年、リーマンショックがギリシャと南欧諸国に飛び火する。巨額の財政赤字が露見したギリシャだけでなく、ポルトガル、アイルランド、イタリア、スペインなど財政赤字の大きい国の国債が暴落した。これら国債を保有しているドイツやフランスなどの金融機関にも当然、危機は波及した。これが欧州債務危機へと発展した。
欧州経済を守るためには、ギリシャ発のドミノ倒しは絶対に避けなければならない。そこでユーロ加盟国は、各国で出資して債務危機国を金融支援する欧州安定メカニズム(ESM)、緊縮財政を受け入れることを前提にECBが国債を制限なく買い入れる国債買い入れプログラム(OMT)を導入し、危機の封じ込めを行ってきた。
この「防波堤」が出来上がったことで、直近ではギリシャ問題がクローズアップされることはほとんどなかった。
だが突然、潮目が変わる。15年1月のチプラス政権の誕生だ。ギリシャ支援の大前提である緊縮財政に真っ向からノーを突き付け、交渉決裂も辞さない強硬な姿勢を見せ続ける瀬戸際戦術によって、EU、ECB、IMFの債権団に譲歩を迫ったのである。
チプラス政権の瀬戸際戦術の背景には、政権基盤の脆弱さがある。チプラス首相率いる急進左派連合は「反緊縮財政」を公約に掲げて、1月の解散総選挙で第1党になった。300議席のうち149議席(第1党に与えられる50議席のボーナスを含む)と過半数に届かないため、13議席を持つ右派の独立ギリシャ人と組んで何とか連立政権を維持している。
政権基盤が脆弱なチプラス政権にとって、一度振り上げた反緊縮という拳を下ろすことは政権崩壊を意味する。しかし一方で、EUやIMFなどからの金融支援を受け続けるには、緊縮財政に関する法案を議会で可決しなければならない。
そこでチプラス政権は危険な賭けに打って出た。緊縮財政を受け入れるか否かを国民投票で決めることにしたのだ。