元金融庁長官の佐藤隆文氏は、2014年11月から、IFRS(国際財務報告基準)設定主体、国際会計基準審議会(IASB)の母体機関であるIFR財団でトラスティ(評議員)を務める。また、佐藤氏が自主規制法人理事長を務める日本取引所グループも、企業にIFRS採用を促している。IFRSを適用する日本企業が増加している今、そのトレンドの背景や採用することの意味について聞いた。
IFRSの任意適用を認める
日本のユニークなスタンス
1973年大蔵省入省。金融庁監督局長などを経て、2007年から09年に金融庁長官。一橋大学教授を経て、13年より東京証券取引所自主規制法人(現日本取引所自主規制法人)理事長、14年よりIFRS財団評議員を務める。
――金融庁長官在任中の2009年6月に公表された「我が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)」(日本版IFRSロードマップ)は、12年を目途に、15年または16年から強制適用を開始することについての是非を判断することとされました。その後、強制適用は棚上げされましたが、ロードマップ公表の動きには、どのような背景があったのでしょうか。
佐藤(以下略):2005年に欧州ではIFRSが強制適用され、欧州で活動する外国企業に対しては09年以降、IFRSまたはIFRSと同等の会計基準の適用が義務付けられました。そのため、日本の会計基準がIFRSと同等と評価されるためのコンバージェンス作業が行われ、EUは、日本基準がIFRSと同等と認めました。さらに米国が、米国市場で適用すべき会計基準としてIFRSを認めるかについて検討するためのスケジュールを示したロードマップを、08年に決定。日本もグローバルの動きに取り残されてはいけないと、09年にロードマップを公表しました。
――この日本版ロードマップでは、一定の要件を満たす企業に対し、2010年3月期からIFRSの任意適用を認めることが示されました。
これにより、グローバル展開している日本企業を中心に、企業の自主判断でIFRSを適用できることになりました。IFRS強制適用の欧州、外国企業にはIFRS適用を認めるものの国内企業には認めない米国などと異なり、日本は任意適用というユニークなスタンスをとっています。
この2、3年は、資本市場の国際化のなかで、政策的にもIFRS適用が促され、適用企業が急増してきました。今年6末時点のIFRS適用企業は、上場約3500社(時価総額約607兆円)のうち61社(同92兆円)を占め、時価総額ベースでは全体の15%に達しています。