総務省は、情報通信分野の新たな潮流とされるクラウド・コンピューティング時代の到来をにらんで、4つの研究会を設けて戦略作りを急いでいる。

 この“4正面作戦”の柱は、(1)標準化や法制面での国際的な調和形成策作り、(2)中心的な設備となるデータセンターの国内誘致戦略のとりまとめ、(3)財政コスト削減のための政府全体のコンピューターシステムの「霞が関クラウド」への一本化、(4)都道府県、市町村システムの受け皿となる自治体クラウドの構築――で構成されている。

 これまでのところ、クラウド・コンピューティングの推進役と言えば、発案者のIBMやシスコシステムズ、マイクロソフト、グーグル、アマゾンといった米国企業ばかりが目立っていた。一方、日本勢の多くは、国内のシステム受注競争でも苦戦を強いられており、ビジネス機会減少の危機に瀕しているという。

 総務省の4正面作戦は、日本勢を窮地から救う救世主になるのだろうか。

クラウドという呼び名で
集中処理方式が復権

 まだまだ馴染み深い言葉とは言えない「クラウド・コンピューティング」。実は、厳密な定義は、米国立標準技術研究所(National Institute of Standard and Technology)が、検討中の段階だ。とはいえ、それでは話が進まないので、筆者の理解の範囲でざっくりしたことを説明しておこう。

 ここで言うクラウドは、中学生でも知っている英単語「cloud」(雲)だ。ちょっとこじつけ臭いのだが、今後は、手許のパソコンをブロードバンド(高速)のインターネットでデータセンターと繋いでおき、手許のパソコンではなく、このデータセンターで様々な情報の処理をできるようにするというのだ。この場合、パソコンを操作している側からはデータ処理センターのシステムや手法がよく見えない状態になるとされる。このため、まるで雲の向こうで処理しているようなものだという意味から、俗に、クラウド・コンピューティングという用語が使われるようになったというのだ。

 ちなみに、コンピューターや通信の歴史を振り返ると、端末と中央のデータセンター(もしくは大型コンピューター)を通信網で結び、中央で一括してデータの集中処理を行う方式は、何もクラウド・コンピューティングが初めてというわけではない。メインフレームと呼ばれた、かつての大型コンピューターの全盛時代は、むしろ、中央での一括処理が一般的だったと言ってよいだろう。

 しかし、その後、メインフレームは開発・投資コストが巨大化した。その一方で、半導体の小型化・高性能化によって、パソコンの性能が飛躍的に向上し、小さなパソコン・端末が中型のメインフレーム並みの情報処理をこなすようになったため、集中管理方式が一時ほど主流でなくなった時期があったのだ。

 そして、最近は、高速インターネットの普及によって、大容量のデータ伝送が格段に容易に、かつ桁違いに低廉化した。この結果、クラウド・コンピューティングという新たな装いをまとって、集中処理方式が再び復権しようとしているのだ。