「電子ペーパーでファッションをデジタル化したいんです」
Photo by Masaki Nakamura
今から1年半前の2013年12月。ソニー本社20階にある役員フロアの一室で、若手社員数人が熱い思いをぶつけていた。
向き合っていたのは、平井一夫社長兼CEO。社内の会合で平井社長と交流した際、面談の約束を取り付けてから2か月後に、ようやくこぎ着けた“直談判”のチャンスだった。
「電子ペーパーを布として捉えることで、新たな価値の提案ができるはずです」
目を輝かせながらそう話す社員たちの熱意に対して、平井社長が首を縦に振るのに時間はかからなかった。
製品開発に向けて、トップから早い段階でゴーサインが出たのは、現場の熱意に加えて、もう一つ大きな要因があった。
ちょうど時期を同じくして、ソニーの中で新規事業の創出・支援に向けたプロジェクトが、有志を集うかたちで少しずつ動き出していたのだ。
14年4月には、新規事業創出部という社長直轄の部署を設置したことで、若手社員5人による電子ペーパーを使った新たな製品開発が本格始動することになった。
その開発第一弾が、電子ペーパー時計の「FESウオッチ」(価格は2万9700円)だ。
時計の盤面と手に巻くベルト部分に電子ペーパーを使っており、重量はたったの43グラム。電子ペーパーに表示される白黒の模様を様々に組み合わせることで、24通りのデザインを楽しめるようにしているのが特徴だ。
ボタン型電池を採用しており、寿命は1日25回時刻を表示させると、約2年間持つ計算だという。