安倍晋三の無知
原水爆を求めて狂っているのは、政治家と職業軍人だけだ。少なくとも現在の日本では、彼らを除けば、大方の日本人は、たとえ「原発が必要だ」という意見の人間であっても、「原水爆が必要だから原発を動かせ」とは言うまい。
では、そのほかの「原発が必要だ」という人たちは、何が目的で、原発の再稼働という危険な言葉を軽々しく口にするのか?
今にも鹿児島県の川内《せんだい》原発が、次の大事故を引き起こし、この国を滅亡させようとしているのに……そして再稼働の二番手に挙げられている愛媛県の伊方《いかた》原発も、日本の西に位置して、日本最大の活断層・中央構造線の真上にある四国の原発だという点では、川内原発とまったく同じ危険性を持っている。
これらの原発を再稼働しようとする最大の原因は、無知にある。
人体におよぼす放射能の危険性について、医学的なメカニズムをまったく知らないのである。
ヒロシマ・ナガサキの被爆者と同じように、悲しいことに、4年前に起こったフクシマ原発事故によって、私たち日本に住む人間の細胞に、至るところ大きな破壊が起こされた。
すでにこの事実は、リセット不能である。
たとえ、全身を測定できるホールボディーカウンターで体内の放射性物質の量を測定しても、それによって、「すでにできた細胞の傷跡」を知ることはできない。これから相当な注意を払って被曝を避けるように注意しても、誰一人、事故前の体には戻れない。
実は、私が“大事故目前”を予感した2010年に、「もし大事故が起こったら、何も言うまい」と決めていたのも、被曝した人に対して「その細胞への影響」を口にする勇気がなかったからである。
ところが翌2011年にフクシマ原発事故が起こってしまうと、みなが平然と高濃度の放射能の空気中を動き回り、ますます被曝しているのを黙って見ていることができずに、これ以上の被曝を避けさせなければならないと思い、全国を回って、300回にもおよぶ講演をしてきた。
だが、どうしても口にできなかったのが、「そのこと」(全身の細胞につけられた傷跡)である。事故によって被曝したあとでは、すでに取り返しがつかない。言っても意味がないと思ったからだ。
しかし安倍晋三たちが、強引に川内原発の再稼働を進めて、大事故を再現しようとやっきになっているのだから、やはり“最も重大なその事実”を言わなければならない。そこで意を決して書いたのが、『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』である。
読者も、過去に生み出された被バク者の苦しみの体験という史実から目をそむけないようにしてほしい。膨大な数の人間が、癌になり、白血病に冒され、白内障で失明し、心筋梗塞で短い命を断たれてきたのだ。