ジュリアーニ市長をかついで
美術展は過去最高の来場者数をマーク

 メディアはすぐにこれに飛びついて大々的に報道、ニューヨーカーたちの間では、「不道徳かアートか」という論争が巻き起こった。一方、若手現代美術家たちは市長の発言に反発して、「アートを守れ!」と美術館前に集まって今の国会前みたいなお祭り騒ぎになったのだ。

 そう聞くと、アートへの理解がない市長の「舌禍騒動」のような印象を受けるが、これまで紹介したものと同じで、実はこれも「炎上商法」だったのではないかと言われているのだ。

 理由はいくつかある。まず、ジュリアーニ氏は元鬼検事として知られた法曹界の人間だ。「表現の自由」が守られることを誰よりも知る者が、こんな無謀な言いかがりをするのは不自然極まりない。しかも問題の絵画を描いた黒人作家も敬虔なカトリックで「冒涜」というほどの描写でもない。ジュリアーニ氏が属する共和党は選挙のたびに、「アート叩き」をおこない保守層へアピールをすることを繰り返していたので、「いつものやつね」と冷ややかに見る者たちもいた。

 さらに、これらの美術品の所有者がチャールズ・サーチだったということも疑惑に拍車をかけた。彼は、世界的な広告代理店「サーチアンドサーチ」の創業者として知られる大富豪だ。美術収集家としても知られ、数々の現代アートの「仕掛け」をおこなってきた人物なのだ。

 このような疑惑が囁かれるなかで、「センセーション」は大成功をおさめ、現代物としてはブルックリン美術館最多の来場者数をマークした。ちなみに、この成功と時を同じくして美術館と市長はひっそりと「和解」している。

 このような「センセーション型炎上」は憎まれ役さえいれば「論争」が喚起できるという手軽さから、世界中で重宝されている。日本では意図的にこういう手段を使う企業は少ないが、偶然にもこのスキームに当てはまることが、よくある。最近では、意図せぬ炎上に巻き込まれた大塚家具のケースが分かりやすい。

 創業者で引退した大塚会長が、娘の久美子社長をボロカスに叩くというジュリアーニ氏のような役割を果たし、父娘喧嘩をマスコミがこぞって取り上げることで、久美子社長が掲げる「手軽な価格のファミリー路線」を市場に周知させた。結果、騒動後の「お詫びセール」に多くの客が押し寄せて、6月中間決算で黒字化を果たしたのはご存じのとおりだ。