IoTでは、異なるメーカーの機器が連動し、異なるサービス提供者同士のデータが相互利用されることが重要だ。そのための共通プラットフォームの構築が進んでいる。
「IFTTT」のような独立系とApple、Googleのような既存大手企業の動きが活発に見えるが、これらはまず機器を普及させてその標準をデファクト化させていく流れで、「ユーザー主導」と言われる(参考記事:【第5回】過熱化するIoTとスマートホーム)。ユーザー主導は我々の目に触れることが多いので目立つが、実はプラットフォームの普及ではサプライヤー主導での水面下の激しい競争が進んでいる。
サプライヤー主導では、通信やアプリケーテョンの共通基準や共通ツールをIoT分野に参入する企業が覇権争いをする流れである。
IoT市場を引っ張るのは、これからはB2B(産業・ビジネス分野)だと言われている。例えば、マイクロソフトのB2C(コンシューマ)分野の昨年の収入は13%減少したのに対し、クラウド関係の収入は88%伸びたそうだ。その流れからも、サプライヤー主導のIoTプラットフォームの動きを注視する必要がある。
サプライヤー主導の動きは混沌としていて分かりにくい。まずは大きく3つのアプローチに分けて考えよう。
(1)IoTの開発ツールや開発環境を提供する企業
(2)IoT相互通信やサービス連携を実現するハードウェアコンポーネントを提供する企業
(3)開発コミュニティーを作る業界団体
の3つのパターンだ。今回は、この3つのアプローチを詳しく見ていこう。
IoTの開発ツール市場は
レッドオーシャン状態
まず、「(1)IoTの開発ツールや開発環境を提供する企業」であるが、その中でも(a) IDEを提供する企業、(b) IDEに共通ハードウェアモジュールを提供する企業、そして(c) IoT用組込みOSを供給する企業、という3つの異なるアプローチがある。
(a)のIDEであるが、IDEとは、統合開発環境(“Integrated Development Environment”)のことで、ソフトウェア開発に必要なソフトウェアを共通画面から統一的に利用できるようにしたパッケージである。そのIoT版を多くのベンチャー企業が開発しており、競争はレッドオーシャン化している。
調達資金の多いベンチャーの順に挙げると、Zonoff、Axeda、Arrayant、ThingWorks、SeeControl、Weavedなどがある。どこも、組込み用接続ソフト、デバイス管理・モニタリング用のPaaSまたはSaaS、クラウド開発ツール、モバイルアプリ用ツール、などの提供がプラットフォームのメニューだ。なかでもAxedaとThingWorksは、製造業向けの設計ソフトウェア会社大手のPTCにそれぞれ1.7億ドル($170M)、1.3億ドル($130M)で買収されている。プラットフォームは最初にデファクトすると強いので、このような買収は動きが早い。
(b) のように、IDEに共通ハードウェアモジュールを加えて提供するベンチャーも出てきた。ハードウェアモジュールを提供する場合は開発・在庫リスクが大きいので、大きなビジョンと資金調達力を持ったベンチャーに限られる。Ayla Networks、Electric Imp、ThingSquareなどはどこもIDEに加えて、デバイスモジュールを開発している。2000万ドル以上資金調達しているAylaとElectric Impは既に市場展開を開始しており、大企業への導入は順調に進んでいるようだ。
一方、大手企業でこの分野に参入しているところでは、ARM mbedがある。世界最大のデバイス向けMCUメーカーであるARMが開発ツールやソフトを提供するサービスだ。これからIDEの機能をどう拡充していくのか注目される。ARMがIDEベンチャーを買収することもありうるだろう。
(c) のIoT用組込みOSもプラットフォームとなるが、そこでも新たに参入の動きがある。今までは、組込みOSはARMのようなチップメーカーが提供してきた。アプリケーションはそれぞれユーザーが独自開発する。前述のIDE提供者がOS及び通信ソフトをセットで提供してきた。
新たな動きは、IT業界大手企業がIoT用組込みOSに参入してきたことだ。まず、米グーグル(Google)がアンドロイドベースのIoT用OSである「Brillo」を発表した。必要メモリが小さく、デバイス間の相互連携の幅が広い。一方、中国の大手情報通信企業であるファーウェイ(Huawei)がLiteOSを引っさげてきた。必要メモリや消費電力が最小であると主張している。