打ち合わせはあまりにも身近で、そこかしこの企業で行われてきました。日本を代表するアートディレクター・クリエイティブディレクターである佐藤可士和氏も、その多忙な生活の多くを打ち合わせで費やしています。そして、たくさんの打ち合わせの経験からいかにそれが大切なものか『佐藤可士和の打ち合わせ』(ダイヤモンド社)で述べています。
打ち合わせは「何となく」「とりあえす」で行うと失敗すると前回お伝えしました。今回は、打ち合わせの全体像、体系図を描くことの重要性についてお伝えしていきます。

プロジェクトの全体像は
見えているか

 前回、最初の打ち合わせではプロジェクトの大きなゴールを決めるべきだとお話ししましたが、次に何をすればいいのかを考えていきます。

 例えば、あるプロジェクトでは、一年後に新しいブランドコンセプトをリリースすることになりました。そこで、まずは半年間くらいかけて、大きな方針を決めていきましょう、という話をしました。コンセプトをつめていき、スローガンを決め、ロゴを考える、といった作業です。そして、残る半年間で、実際にデザインやプロダクトに落とし込んでいくことにしました。

 では、そのために何度、打ち合わせをする必要が出てくるのか。もちろん難易度にもよりますが、その場でおおよその打ち合わせ回数も決めてしまいます。コンセプトを決める打ち合わせを3回、と決めたら、この3回で何をしなければいけないか、考えることになります。
 デザインを作ることになれば、プレゼンテーションの時間やチェックしてもらう時間も作らなければなりませんから、もっと多くの打ち合わせ回数が必要でしょう。
 これはあくまで例ですので、打ち合わせの回数は本当にケースバイケースだと思います。ただ、大事なことは、ゴールに向かうまでに何が必要になるのか。しっかりプロジェクトの中身を洗い出しておくことです。そうでなければ、スケジュールを決めることはできません。

打ち合わせは単に打ち合わせとして存在しているのではなく、プロジェクトを構成している重要な部品のひとつとして存在しています。その認識で、打ち合わせを設計することが重要になります。

 僕がよく喩えるのが、建物の構造計算です。建物を造るとき、いきなり中の部屋から作ることはできません。まずは建物全体から考えないといけない。その上で、これは何をやる部屋、これは何をやる部屋、と中身を作っていく。
 これはプロジェクトも同じです。まずは仕事の構造計算をするのです。大きなゴールから、仕事の構造を作り上げていく。何が必要になるのかを洗い出していく。必要なものは、どうすれば手に入るのかを考える。そのために必要な仕事を設計していく。
 打ち合わせは、この設計の中の重要な要素になります。そして、大きな構造の中に組み込まれていますから、常にそれぞれがゴールに向かうための目的を持っていることになります。

構造ができていれば、「今日はブレインストーミングの日だ」などといったことが明確になります。そうすれば「急いでアイデアを確立させる必要はない」「とにかくいろんな意見を出し合う場だ」「焦ることはない」などという思いも共有できます

 ところが、打ち合わせの目的が曖昧だったり、参加者の間で共有できていなかったりすると、突然打ち合わせの前に「今日は役員も急遽、加わることになりました。可士和さんから、アイデアをプレゼンテーションしていただけるんですよね?」などと問われるような事態に陥る。当然、そういう段階ではないので、こちらに用意はありません。するとプロジェクトはストップしてしまうのです。
 仕事の構造と目的が理解できていない典型例だと思います。仮に役員が同席したいと急に申し出たとしても、打ち合わせの目的は変えられません。物事にはプロセスがあるのです。役員にはっきりと、「今日の打ち合わせの目的はこうです」と告げる必要があるでしょう。

 ゴールから逆算して打ち合わせを何回にするかはケースバイケースだと書きましたが、原則はあると思っています。それは「できるだけ少ない回数を心掛ける」ということです。むやみに打ち合わせを入れようとするのは、参加者の時間を奪う行為でもあるからです。
 プロジェクトには、ゴールがはっきりしていないこともあります。これもやりたい、あれもやりたい、という要望がたくさん出てきたり、何かをしたいけれど何をしていいのかわからなかったり、というケースです。
 しかし、明確にいえることは、一度にたくさんのことはできないということです。そこで話をするのが、まずは課題をはっきりさせること。クライアントには何が問題なのかを整理していきましょう、というお願いをします。

課題を設定し、コンセプトを立て、実際のアイデアを考え、デザインをし、それをどう運用するかを決める。それが、僕が関わる多くのプロジェクトの基本的な流れですが、最も重要なのは、最初の課題の設定です。これがずれたら、何も生み出せない。そもそも、何が問題かわからなければ、解決することなどできないのです。

<POINT>
打ち合わせポイント(23)プロジェクトの「構造計算」を行う
打ち合わせポイント(24)適正な打ち合わせの回数をゴールから逆算する
打ち合わせポイント(25)「あれもこれも」ではなく「まずはどれをやるのか」を決める

プロジェクトごとに
「体制図」をつくる

佐藤可士和(さとうかしわ)
博報堂を経て「SAMURAI」設立。主な仕事に国立新美術館のシンボルマークデザイン、ユニクロ、楽天グループ、セブン-イレブン・ジャパン、今治タオルのブランドクリエイティブディレクション、「カップヌードルミュージアム」「ふじようちえん」のトータルプロデュースなど。毎日デザイン賞、東京ADCグランプリほか多数受賞。慶応義塾大学特別招聘教授、多摩美術大学客員教授。著書にベストセラー『佐藤可士和の超整理術』(日経ビジネス人文庫)他。

 プロジェクトが本格的に動き出す前に、僕が取り組んでいることがあります。それは、プロジェクトを動かしていく「体制図」を作り上げることです。野球で言えば誰がどこを守るのか、バンドで言えば誰がボーカルで誰がギターなのかを決めるということです。そして、それを「可視化」しておくことが大切です。

誰がどんな役割を担うのか、誰が意思決定権者なのか。そうしたことが一目でわかる組織図を作り上げる。誰が何をする人なのかが可視化できれば、後のプロジェクト進行に大きく活きてきます

 僕に委ねられるプロジェクトは、経営者直々の案件が少なくありません。よって、イレギュラーなプロジェクトになる場合が多い。それぞれのプロジェクトのメンバーは、普段は別に持ち場があり、別に仕事のミッションを持っているのです。
 こうしたプロジェクトは、漠然となんとなくやっていると、回っていきません。だから、きちんと「プロジェクト化」しておかなければならないのです。

 そこで僕は経営者に、プロジェクトの立ち上げを社内に対して宣言してもらいます。そして、5人ほどのステアリングメンバー(方向付けをするメンバー)を選んでもらいます。これが、プロジェクトの「頭脳」になります
 この5人とまずはコアな打ち合わせを進めていきますが、後に例えば商品、店舗、広告・PRなどのコミュニケーション、ウェブ、CSR(企業の社会的責任)など、さまざまに分科会のようなチームを作ってもらうことになります。そしてそのチームのヘッドを挙げてもらい、「体制図」に一人ひとり社員の名前を入れていくのです。
誰が何をやるのか、誰が責任を持つのか、をはっきりさせる。これをやっておけば、どんな決断が、どこで行われるのかも、一目でわかります

 会社全体のブランド戦略のような大きな仕事を依頼されるようになってからは、関わるメンバーが増えました。
 誰が何に関わっているのかを理解していないと、ゴールに向かうためのさまざまなプランは描けないのです。

 しかし、プロジェクトがあるだけでは、まだぼんやりしたまま。さらに強固にするため体制図を作ることにしたのです。これは、プロジェクトのキックオフで全メンバーに配ります
 僕自身、プロジェクトが可視化できてありがたい体制図ですが、プロジェクトメンバーにも、とても好評であることがわかりました。誰にどんな役割があり、どんな責任があるかがはっきりするので、みんなが安心するのです。
 例えばブランディングプロジェクトの場合も、最終的にはメンバーが個別に動くことになります。ですから、全体として何をやっていくのかを、最初にはっきり理解してもらわないと、個別の行動がズレていってしまう危険があります。それを防いでくれるのも、体制図です。

 体制図づくりは、多くの場合、ステアリングメンバーとプロジェクトのコンセプトづくりなどベースとなる打ち合わせが終わった後に行います。言ってみれば、実行のフェーズです。それまでのステアリングメンバーとの打ち合わせでは、体制をどうするのかも頭に描きながら打ち合わせを進めていきます
 実のところ、ここからが実行のスタートですが、ここまで来れば、もうプロジェクトは半分くらい終わったイメージです。それくらい、体制図づくりは重要なのです。

 次回は、打ち合わせの「場づくり」の大切さについてお伝えします。話しやすい打ち合わせは、場をつくる努力からスタートしていることが多いのです。

<POINT>
打ち合わせポイント(26)プロジェクトメンバーを一目でわかる体制図で可視化する
打ち合わせポイント(27)誰が何をやるのか、誰が責任を持つのか、をはっきりさせる