東シナ海で中国が開発したガス田。2008年の日中ガス田合意後、両国は局長級などで共同開発に向け協議したが、10年に尖閣諸島沖で起きた中国漁船拿捕事件で頓挫した Photo:朝日新聞社/JIJI

海洋国家ニッポンを取り戻せ──。7月20日、安倍首相が重大計画をぶち上げた。海底資源開発を担う技術者を1万人に増やすというものだ。だが、日本の海洋開発産業は世界に出遅れている上、日本近海ではガス田をめぐり中国との緊張感が高まっている。海洋開発復権の道のりは平たんではない。(「週刊ダイヤモンド」編集部 千本木啓文)

「海には資源も仕事もある。ぜひ、次世代の若手には果敢に海洋開発にチャレンジしてもらいたい」

 安倍晋三首相は、7月20日に開催された海の日の記念式典で、ある重大計画をぶち上げた。海底資源開発に従事する技術者を、現在の2000人から2030年までに5倍の1万人に増やす、というものだ。政府が海底資源開発の産業規模について数値目標を掲げるのは初めてのことだ。

 政府には強烈な危機感がある。日本は世界6位の排他的経済水域(EEZ)を持つ海洋国家でありながら、実は、海洋開発の“産業化”では欧米勢に大きく出遅れているからだ。

 日系企業は、海底資源の主役である石油・天然ガスの「探査」「掘削」「生産」のいずれの市場にも食い込めていない。かつては日本の“お家芸”だった海底資源開発だが、1985年のプラザ合意後に円高が進行し自国開発を断念。関連産業の根幹技術が途絶えてしまった。実績に乏しい日系企業が、原油流出事故など莫大な補償損失リスクが伴う大型案件を任されることは少ない。

 だが、今、日本の劣勢をはね返すチャンスが訪れている。日本近海で有望な海底資源が相次いで発見されているのだ。その代表格が、銅や銀などの鉱物資源を含む「海底熱水鉱床」や、メタンと水が結晶化した物質「メタンハイドレート」だ。これらの海底資源の商業生産が可能になれば、技術と経験値を武器に世界中の海底資源市場へ打って出ることができる。

 政府がこのタイミングで「技術者1万人」目標を掲げたのも、海洋開発を成長戦略の柱と位置付けて、関連産業の国際競争力の強化を狙っているからに他ならない。

 もっとも、「1万人」の数字の根拠をたどると、この目標値がいかに弱気なものであるかが分かる。

 複数の政府関係者によれば、「海底資源開発の技術や機器建造を合算した世界市場は、20年に33兆円、30年に50兆円まで拡大する見込みだ。そのうち、日本が獲得しようとしているのは、シェアわずか4%(売上高2兆円)にすぎない。その前提から技術者1万人という数字をはじいている」。日本政府の目標からは、世界の海洋開発をリードする、という意欲が全く感じられないのだ。

 目下のところ、海底資源開発のコア技術については欧米企業が掌握している。機器建造のシェアについても、韓国(33%)と中国(26%)で過半を握られており、日本は1%だ。

 日本の弱気姿勢とは対照的に、韓中政府が掲げる目標は極めて野心的だ。