インターネットの書き込み情報が、耳目を集める事件の犯人を新聞やテレビよりも早く特定することは珍しくない。「絶対に許さん」と私憤を抱き、容疑者が未成年であろうと実名を晒し、住所や家族も記してしまう。本書は彼らがなぜ暴走するかに迫っている。
一人一人の素顔は素朴だ。背景に特定の思想があるわけではない。大半は軽い気持ちの勢いでの書き込みから始めている。当然のことながら、そのようなことは許されることではないが、顔なき「正義」の私刑は止まらない。
川崎中1殺害事件や大津いじめ自殺事件では、全く関係ない人物の名前や住所、職場までが、ネット上に書き込まれた。風評被害者の話からは、匿名性を担保された人間の攻撃性や醜悪さが我々に突きつけられる。
ネットは生活に不可欠なのは間違いないが、使い方次第で人間の憎悪を短期間で増幅するのに適した装置でもある。「たかがネットの書き込み」も積み重なれば、強大な暴力になる。その危うさを緻密な取材で訴えている。
※週刊朝日 2015年8月28日号