「節約してる?」――これが“エビ族”の合い言葉。エビ族とは、金融危機以降、収入の落ち込みと不動産高を背景にして中国都市部に出現した“消費しない若者”たちを指す。

 なぜエビ族なのか。中国語で「虫下米」(※虫へんに下で一字)とは網をすり抜けてしまうほどの小エビのこと。小さいパンに7匹のエビがぎっしり詰まるエビバーガー(「至珍七虫+下堡」)は、肯徳基ことKFCが昨秋発売したものだが、小さい住まいに蟄居する様子を、エビの住む小さい巣穴に喩えたところからこの流行語が生まれた。

KFCが昨秋発売したエビエビバーガーは「エビ族」の流行語を受けて定番化した。

 急激な物価上昇にもかかわらず給料は上がらない、不動産もここまで上がったらもうお手上げ、かくなる上はもう諦めるしかない。上海の企業に勤務する多くの若手サラリーマンを支配しているのは、そんな諦めから生まれた「開き直りムード」だ。

 外資企業に勤務する若いカップルが昨年1LDKの新居を購入した。「買えたところでせいぜい1LDK。社員のほとんどが持ち家なので、買わないわけにはいきません」と話す。他方、「もう賃貸でいいです、これだけ値上がりしたらもう買えません」と諦める男性(29歳)もいる。

 身の丈大の生活を受け入れ始めた彼らの生活、その“ケチケチ生活のススメ”はメディアの特集にもなるほど。地元紙の申江服務導報は「2010年版のサラリーマン生活」と題し、「賃貸に住もう」「転職は控えろ」「出勤は自転車で」「(不動産価格の高い)上海からは脱出だ」など16ページにも及ぶ特集を組んだ。

 高層マンションの住人になり、家具をそろえ、クルマも買い――。そんな生活から打って変わって、節約・工夫を支持。これは過去を否定する180度転換した新潮流だ。

節約・割安へと変化する
上海の消費市場

 上海で長期的に消費市場を観察するコンサルタントのT氏は、「09年を前後して、消費市場も変化を見せつつあります」と指摘する。

 例えば、方正科技は40平米足らずの狭い部屋(ちなみに日本のワンルームマンションは平均20平米だが、上海では複数で40平米に住む可能性もある)に住むエビ族に向けて、邪魔にならずに置ける新しいパソコン(方正心逸Q200)を発売した。

 家具のIKEAはエントランスの正面に、17平米、25平米、36平米とタイプ別の小型リビングをショールームにして展開、まさに彼ら「エビ族」向けの売り場を全面に押し出している。テーブル349元(約4500円、以下1元=約13円)、ソファー1949元(約2万5000円)、壁面テレビ台2219元(約2万9000円)と割安感を重視した陳列だ。