支局長とれいみは、「怪しい関係」と笑い話のタネにされている。店内で客の間で話題になると、支局長は笑っているだけだ。れいみもまた「イェーイ」と顔を赤くし、おどけてみせる。

 支局長の名は遠藤。年齢は53歳。30年ほど前東大を卒業し、現在のテレビ局に入社し、報道、編成、営業などと渡り歩き、数年前、北関東の支局長に赴任した。はるか前に結婚し、1人息子は現在、大学3年だ。

 北関東の支局への異動は、当然「左遷」である。キー局の場合、社員のほとんどが都内の本社に勤務する。大阪や名古屋、海外に支局はあるが、大手新聞社などのそれとは意味合いが異なる。報道というよりは、営業の仕事をするために支局を設けているのだ。ましてや北関東の支局ならば、社内の扱いはそれなりのレベルでしかない。

 支局長の部下は、たった2人。現地で採用した嘱託の女性と、1年ごとの契約カメラマン。このカメラマンが記者を兼ねる。支局長の遠藤は、北関東にある上場企業などに出向き、CMなどのスポンサーになってもらえるように交渉する。

 北関東では、社員数1000人に満たない上場企業が多く、都内に本社を構えるような本格的な大企業は少ない。数千人規模の会社は、財務力が強固とは言い難い。キー局の番組スポンサーになることは、今の時代はなかなか難しい。遠藤がするのは、本人いわく「断りを受けることがわかっている会社への、ルートセールス」。

次は本社への栄転、間違いなし
冷めた目をする新聞社の支局長

 遠藤は30代後半の頃から、同期生と比べると昇格が遅れ始めた。53歳の今、同期生には取締役編成局長もいれば、関連会社の専務取締役もいる。遠藤は支局長ではあるが、待遇は「部長」である。本社にいるとき、部下はいなかった。「本部長の下につく部長の下に位置する部長」だったという。

 遠藤の「歌らしきもの」を聞きながら、義理にしか思えぬ手拍子を田口の他、2人の男性がしている。この男たちは、三大全国紙の1つに数えられる新聞社の記者である。3人の横で腕を組みふてぶてしく座るのが、上司であり支局長の飯沼(52歳)である。社会部に長くいたこともあり、眉間の彫りが深く、険しい顔つきだ。

 この新聞社と遠藤が勤務する支局は、同じビルにオフィスを構える。5階と6階に分かれているが、双方の社員は時折、情報交換もかねて互いの事務所を訪ねる。

 遠藤と飯沼は、年齢がほぼ同じだ。東大の頃からの友人である。今や、「社会的な地位」の差は歴然としている。片や落ちこぼれであり、片や「次は本社の編集局次長兼部長は間違いなし」とされていた。